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 『引』と書かれたドアを手前に引くと、ピロリーンと軽快な電子音が鳴った。この店で昔アルバイトをしていた人の趣味でこの音が鳴るように勝手に設定してしまったと店長が言っていたのを思い出す。


「いらっしゃいませ」


 声低っ! 新しいアルバイトか? 初めて会う気がする。


「店長はいないんですか?」

「いませんね」

「あなたはゲームとか詳しいですか?」

「まぁ……それなりに」


 店員は、厚い前髪が鼻くらいまで長くて目を見ることができない。

 なんか無愛想な店員だな。男に愛想振りまかれても嬉しくないけど。


 こいつに聞いてもいまいちピンとくるゲームを教えてくれなそうだが、それなりに詳しいって自分で言えるくらいなら聞いてみる価値はあるか。試してやろう。


「最近入った中古でオススメあります?」

「ああー……ちょっと待っててもらえますか」


 お、どうやらあるらしい。

 全然期待していなかったはずなのに少しそわそわする。

 何系だろうか? ハードはほとんど持ってるから問題ないと思うけれど、ゲームの好みはほんと人それぞれ違うから勧めたり勧められたりしてもなかなかぴったりハマるものには出逢えなかったりするのだ。さて、今回はどうだろう。

 たかがゲーム、されどゲーム。娯楽を極めた文明の利器を侮ってはいけない。


「お待たせしました、これとかどうですか」

「どれどれ……」


 俺は店員の手にあるパッケージを覗く。


『リアル・ラブモーション!ぎゅーっと!』


 そこには、かわいい女の子たちが4人。こちらを向いて笑っていた。


「ギャルゲーがくるとは……」

「このゲーム知ってます? 僕こないだ初めて聞いたんですけど」

「確かに、聞いたことないですね」

「ネットとかで調べても情報が無くて」


 ネットで調べて出てこない? どんなにマイナーなものでもそれはあり得ないだろ。考えられるのは自主制作とか……いや、それにしては市販されてるものと遜色なさすぎる。それとも今時の自主制作とはこんなにレベルが高いものなのか?


「どうしました? あ、もしかしてお客さんもこういう系のゲームはあまりやらないです?」

「あっ、いや、すみません」


 ちょっと考えてみただけのつもりだったが、だいぶ黙り込んでいたみたいだ。


「正直言うとそろそろ、それ系は飽きたんですよね」

「飽きるほどやったんですか?」

「えっ、あ、まぁ」


 痛いところを突かれた。


 あれは中3の受験期。

 もともと成績の良い俺は特に勉強をするでもなく、取り憑かれたように有名どころからマイナーなものまでとにかくひたすらギャルゲーばかりやっていた。女の子たちを落として落として落としまくる。シナリオがよく出来ているものもそれなりにあって、時々感動させられたり。

 そろそろギャルゲー評論家になれるんじゃないだろうか?

 と、その頃の俺はそんなくだらない事すら考え始めていた。


 しかしそんなにやっていたのにも関わらず、突然飽きた。

 丁度いま流行っているオンラインゲームが先行配信されて、俺ももれなくアカウントを入手したのが節目だった気がする。

 あれ以来、ギャルゲーはやっていない。

 だが、店員の兄ちゃんはもう俺のギャルゲー経験値にとてつもない期待を寄せていた。


「そんなにやってきたならこれが良作かクソゲーか判断できるじゃないですか!」

「いや、でも」

「お願いします、安いですから! 500円ですよ!」

「何でそんなに勧めるんだよ、必死すぎだろ! 怪しいんだけど!」

「でも今はこれ以外にオススメ無いですよ」

 

 じりじりとゲームを俺のほうに寄せてくるなよ!

 店員の目を見ることはできないけれどその前髪越しにすっごく見られてる気がする。……他にオススメもないって言ってるし、もう諦めるしかなさそうだ。


「ああもうじゃあ分かった!! 不本意だけどそれにします!」

「ありがとうございます! 今度感想聞かせてくださいね」


 口元を緩ませてにへにへ笑っている店員を見て、俺は深くため息を吐いた。

 乗せられた感じしかしない。


 せめてこのゲームのシナリオが良いことを祈るしかないな……



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