焼き肉食べ放題〜統率のとれた彼ら〜
街の中心から少し離れた高台に、その焼き肉店はあった。
ログハウス風のあたたかみのある外観で、窓から見える内装もコジャレている。
ここの焼き肉店は食べ放題で、ランチ時間だと千八百円。自分の欲しい物を欲しい分だけ取るセルフサービス形式だ。多量に残した場合には罰金を取る、と料金表に書いてある。
「彼が私と同じサークルの半雨次郎君、こっちがクラスメートの尾瀬市乃さん」
間を取り持つように頼まれた沙世は、店の前で二人を紹介した。
そして、
「じゃあ後は若いお二人で」
と、締めて、そそくさと逃げようとした。しかし、
「待って!」
「そうだよ。沙世りん。せめてこの店だけでも一緒にいてよ」
次郎、市乃の両方に腕をつかまれた。
「ダメ、金欠、ダイエット中。二人とも、もうすでに息ぴったりなんじゃ?」
「そんなぁ〜」
「金は俺が出すからさ、な」
「私もっ」
ふぃーっと、ため息をついて沙世は
「仕方ないな」
と二人に付いて焼き肉店に入っていった。
店内は比較的混んでいた。
付き合い慣れたカップル、子連れでたまの外食!のような分かりやすい人達に混じり、一目ではよくわからない集団がいくつか。
「小学生がたくさんいるね」
「少年団とかじゃ?」
「ああ。そっか」
「あっちは『久しぶり〜』とか言ってるから古くからの付き合いかもね」
沙世はサラダを食べながら何気ない感じで周囲の様子の話題をふった。
ふと不思議な集団が目に入る。
奥の席で人数は八人。何だかいやに統率の取れている風である。
「あの人達なんの集まりかなぁ?」
「自衛隊……にしては子供も混じっているし、女の人も多いよね」
次郎も不思議そうにしている。
彼らは右回りに一人ずつ料理や肉を取りに行っている。そして、一人、鍋奉行ならぬ焼き肉奉行が黙々と焼いては、右回りに分配している。
その動きがあまりにも整然としすぎていて、周囲から少し浮いていた。
「……まあ、いっか」
今日は二人のキューピッド役だったな、と思い出したのか、沙世は話題を変えた。
「そういえば、二人は趣味とかはなんかあるの??」
「うーん、俺はギターとか音楽鑑賞かな。最近あんまりしてないけど」
「私は編み物かな。編んでる時、たまに音楽聴くよ〜」
「へーどんなの?」
どうやら音楽の趣味は合っているようで、沙世は胸を撫で下ろした。
市乃は場を仕切るのが得意な様子で、話しながらも肉や野菜を順序よく焼いていく。
次郎はその姿に感心し、
「市乃ちゃん手際いいね」
と言った。
「えへへ。味の薄いのから焼くのが美味しいコツだよっ」
「えらいなぁ」
「良かったね、市乃」 二人がうまくいきそうで、沙世がニヤつきながら言う。
「えへへ。勉強した甲斐があったよ!」
「勉強?」
舞い上がる市乃に沙世と次郎は怪訝な顔をする。
「うん!あの人達に教わったの」
ウキウキしながら市乃は統率のとれた謎の集まり近づいて行く。
「ありがとうございます。おかげで、上手くいきそうです」
「わあ良かったね」
「市乃ちゃんはのみ込み早いから」
彼らと市乃は知り合いのようで、すっかり馴染んでいた。
テーブルに残された二人は唖然とする。
「あっ」
テンションが上がりすぎて、端からみると妙な行動を取ってしまった事に気付いた市乃は、アワアワと説明しだした。
「なんて言うかね、テーブルマナーを教わったというか……怪しい人達じゃないのよ。焼き肉学って、言ってヴァーチャルリアリティーで焼き具合とか学べるの。ヴァーチャルリアリティーだから肉が無駄にならないし」
彼女の言い訳が終わるか終わらないかの時、3D映像が切れ、ヴァーチャルリアリティーに切り替えて良いかとメッセージ出た。良美は「はい」と応える。
切り替わった会議室のような部屋で、白い長机がいくつかあり、七人程度が座っている。
「このようなことが起こらないよう、オフ会は細心の注意をし、自然さを演出すること!」
「一般人を交えて実践する者は連絡はトイレか事後に行うこと」
熱をこめて焼き肉学講師が言った。
「ナニコレ。名前からして胡散臭い講座だったけれど……こんなので大丈夫なの?」
良美は隣に座る友人の久実にささやいた。
「でも、あんな風に焼き肉出来たら素敵じゃない?」 久実の目は輝いていた。
「えー?」
(久実って結構不思議ちゃんなところあるし、乗せられやすいよなぁ)
普段の食事マナーを学びたい、という久実の付き添いできた良美は、友人の行く末が心配になった。
終