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豚も歩けばプリンスと週番!

「おはよう山梨」

にこやかに笑いかけてくる新田君が憎い。

一緒に週番の仕事をするはずだったのに、この裏切り者!

叫んで泣き出したいのをこらえて、比奈は「おはよう」としょぼくれた挨拶を返した。


「どうしたの?元気ないじゃん?何かあった」

「別に……」

何かあったといえばありありだが、新田君が週番をプリンスと代わったせいで私のテーションがガタ落ちなどとは口が裂けても言えない。

「新田君こそ週番代わってもらったんでしょ?お家の用事?」

なんとなく聞いてみると、新田君が微妙な顔をする。

「あ、プライベートな事だったら詮索しないから!野次馬根性でごめんなさい!」

比奈が慌てて謝ると、新田君は笑いながら「違う違う、大したことじゃないから」と顔の前で手を振った。

「俺さ、美術部なんだけどさ。今ちょっと描きたい奴がいるんだよね。そいつが今片思い中でさ。恋のキューピットじゃないけどさ。一週間協力してくれればモデルになってもいいっていうから。いまそいつの為に色々頑張ってるんだ。だからその関連で週番も出れなくてさ」

「へー」

そのモデル候補さんのせいで比奈はこんな目にあっているかと思うと、ちょっと恨めしい。

とはいえ、比奈とて一応生物学上は女の子である。

他人の恋バナでもついつい応援したくなってしまう。

「そのモデル候補さん、両想いになれるといいね。新田君がそこまでして描きたいなんてよっぽど魅力的な人なんだね。」

「そーそー、すっげぇ魅力的な奴なんだけどね。いかんせん好きになった相手がどうも難攻不落って言うか、全然無自覚な子でさー」

「天然な子なんだ。それだと解ってもらうまでが大変だね」

比奈の母も天然なので思わずモデル候補さんに同情してしまう。何度告白しても全然本気にしてくれなかったんだよと苦笑していた父を思い出した。

「うん。でも何とか一緒に勉強する約束取り付けたらしいよ」

「わぁ、すごい!よかったね!その調子で上手くいくといいね!」

「うんうん、山梨さんも是非この恋が実るように応援してくれたまえ!」


新田君にやたら気合を入れて肩をポンポンと叩かれた。

比奈に出来ることなど、心の中で応援することぐらいだが、せめて名も知らぬモデル候補さんの恋が実るように八百万の神様にお願いしよう。



******



週番の仕事は朝だけではない。

休み時間の黒板消しも立派なおつとめである。

というか、黒板に週番の名前が書いてある時点で、プリンスと私が週番一緒だということはバレてしまった。

せめてなるべく接触しないことを心掛けている。

一限目から昼休みまではチャイムと共にダッシュで黒板を消してプリンスが来る前に席に到着するという作戦が成功している。プリンスは人気者なので、授業後に皆がプリンスに解らないところを質問しに行くからである。

足止めグッジョブ!と喜んでいたのも束の間。


5時限目からはプリンスが、「山梨ばかりに仕事させるの悪いから」と言ってクラスメイトを振り切って手伝いに来て下さりました。なにその余計な気遣い。

「私ひとりで出来るからいいのに」

「いや、そういう訳にもいかないだろ?あとは俺やるからかして。上の方は届かないだろ?」

「あ、ありがとう」

ではお願いします。とお辞儀をしてそそくさと黒板消しを置いてその場を後にする

「山梨って身長いくつなの?」

予定だったのだが、プリンスに話しかけられてしまい逃亡に失敗した。

「153センチです」

「そっか。ちっちゃくて可愛いな」

そのセリフに比奈は目を丸くした。サッと周囲を見渡して誰かに今のやり取りを聞かれていないか確認する。幸い次の授業は教室から遠い位置にある化学室での授業だったので、生徒の多くはもう移動したようだ。教室に残っているのは3人ほどで、彼らももう出るところだ。珍しくプリンスの取り巻きもいない。


……た、助かった。命拾いした。


それにしてもプリンスのリップサービス怖い。爆弾すぎる。

そもそも無理してお世辞など言う必要はないのだが、プリンスはセレブなので親からレディには優しくという教育でもされているのかもしれない。

比奈の精神衛生上かなり悪いので、そういう台詞を言うのはやめてほしい。


「放課後なんだけどさ。週番終わった後ちょっと時間あるかな?今朝言ってた古典教えて欲しんだけど」

「すみません。放課後はとっても忙しいです!びゅびゅんと週番の仕事を終えた後はすぐに帰る予定です!」

「残念。じゃあ明日は暇?いつなら平気?」

うっ、と思わず返答に詰まる。

365日忙しいです。そんな日は来ません!と宣言したい所だが、比奈は部活もやっていないし、バイトもしていない。

基本暇人間の部類に入る。言い訳を必死で考えている間にも刻々と秒針は進む。

沈黙が痛い。

「……あの、やっぱり私なんかに教わるより、先生とか他の古典が得意な子に教わった方がいいと思うよ。私、教えたりするの下手だし」

「山梨は俺と一緒に勉強するの嫌?」

プリンスがやや憂いを帯びた瞳で比奈に尋ねた。直球な質問に比奈はまたしても返答に詰まる。

「どうして俺のこと避けてるの?」

避けてるのがばれている!

良く考えたら、あれだけあからさまだったのだから当然かも知れない

「俺、何か山梨に失礼なことしたか?俺のこと嫌い?」

プリンスは口籠る比奈に構わず追加球を投げ続ける。胸へのデットボールが大変痛い比奈である。

「・・そんなこと・・・」

「じゃあなんで俺のこと避けてるの?」

プリンスが比奈の腕を掴んだ。比奈はビックリして腕を外そうとするが、プリンスはぎゅっと握って離さない。


「・・あのっ・・、」

「何?」

射抜くように見下ろされ、比奈は思わず唾を飲んだ。

手にいっそう力が篭もる。怖かった。


比奈は最大限のなけなしの勇気を出して口を開いた。


「桐生君がイケメンでかっこよくて女子に人気だからです!」


プリンスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてポカンと比奈を見つめた。

そしてみるみる顔を朱に染めた。どうやら照れているらしい。散々言われ慣れているだろうに、プリンスは意外とウブな人らしい。

そんな反応をされると、言った本人である比奈も恥ずかしくなってしまう。とんでもないことを言ってしまったような気がして、早口に言い訳をした。

「いや、その、桐生君は女子の憧れの的だから、私みたいなデブが桐生君の傍にいるとね。色々と悪口を言われたりすることがあるんです。だから、別に、桐生君が嫌いとかじゃないです」

しどろもどろの説明でもプリンスはちゃんと理解できたのか、そうかと頷いた。


「じゃあ、誰にも見られない所でなら俺に古典を教えてくれる?」


なぜそこまでして私に古典を教わりたいのか謎だ。

何なの?古典で100点取らないと死ぬ呪いにでもかかってるの?


「場所の心配はしなくていいよ。俺が用意するから!」


何故か意気込んで言い放たれた。

えっ、プリンスってこんな熱血系だったっけ?

溢れんばかりの気迫に負けて、比奈はぎこちなく頷いた。


「よかった」


その時のプリンスの笑顔があんまり嬉しそうで、思わずドキリとしたのは秘密だ。





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