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リュカは一度、父親に奴隷のことについて聞いてみたことがある。ラファランは苦い顔をして、奴隷のおよそ一割はなんらかの罪を犯した人間がその代償として奴隷の身分に落とされているのだと教えてくれた。そして、残りの九割は北方から連れてこられた罪のない人々だとも。
ラファランの口調は重々しく、奴隷制度を良く思っていないのがはっきりと見て取れた。
確かに、奴隷制度は良くないことだ。それはわかる。が、ハーレムを作ろうとしているリュカにとっては都合がいい。
ラファランはそこで話をやめてしまったのでそれ以上の情報は得られなかったが、リュカはいつか奴隷を買おうと、秘密裏にお金を貯めている。
そのお金が十分に貯まる頃、自分の男としての機能が成熟しているだろうとリュカは考えていた。そして、その予測は当たった。しかし、予想外の事態も起きた。
奴隷を買おうと決めてから二年後には精通が起き、そこからさらに四年。リュカは十四歳になった。もし精神年齢も成長しているとするなら、精神的には既に四十近いことになるが、最近の若いもんは、などとオヤジ臭いことを考えたことはないので大丈夫だと思っている。
ちなみに、なぜリュカが四年待ったかと言えば、世間体である。貴族だからある程度は許されても、度が過ぎてはダメだと分かったからだ。
やれるようになった直後、迷い込んだふりをして娼館街に行き、そこで年下趣味の娼婦――ボブカットの栗毛が綺麗で、均整のとれた肢体の獣人だった――で初めてを済ましたことが父親にばれ、こっぴどく貴族としての心構えを説かれて分かったからだ。
十四歳でも、前世であれば十分マズイ年齢ではあるのだが、こちらの世界でならギリギリ大丈夫だ。産めよ増やせよの世界だからだ。子供も立派な労働力である。貧しい地域では、冬の間の食料になったりするという話もあり、ぞっとしない話だ、とリュカは改めて裕福な家庭に転生したことを感謝した。最悪、意識のあるままなにも抵抗できず食料にされた可能性もある。
なんににせよ、もう十四である。ラファランが息子が非行に走らないよう目を光らせているとしても、世間は一応リュカの行動を見逃してくれる年齢である。
自分が床上手であるのは、四年前に確認済みだ。
奴隷を買えるだけのお金も貯まった。
母親同様、背の高い美人に育ったクリスに、リュカをこんにちまで好きでいるようにコントロールすることも成功した。
学校でも何人かの心を掴んだ自信があった。
――怖いくらいうまくいったな。
リュカの計画は当初の予定通り進んでいた。彼の容姿以外。
いまだに150センチに届かない身長。授業で大人用の木剣が振れない華奢な体。白い肌と大きな灰色の瞳、癖のある金髪さえも、リュカを子供っぽく見せていた。
――これじゃ、人を組敷くことができないじゃないか。
ようするに、リュカは犯罪行為がしづらい体に育ったことが嫌なのであった。どちらかと言えば、身長は190センチを越え、重たい戦斧を軽々と振り回す兄のジルのような体に育ちたかったと思っていた。
本当は医者になる勉強がしたい彼とすれば、父親のつてで王家直属の騎士団へ入れられる遠因となった屈強な体は邪魔でしかないだろうが。
――兄弟で体が逆だったらよかったのに。さすがにそこまで贅沢を言ったらばちが当たる……か。
この体のおかげで女性に警戒心を与えないし、四年前と同じ手口が使える。そうポジティブに考え、リュカは貧しい農民の子供に変装し、夜中、伯爵家の屋敷を抜け出して娼館街へ向かった。
しかし、リュカはこの日、一人として女性を抱くことなく慌てて屋敷へ帰ることとなる。