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会話を聞き取れるようになって、リュカは自分が失敗していたことに気づいた
メイド達の間で、「ぼっちゃまは泣いたことがない」と言われてしまっていたのだ。気味悪がられてはいなかったのが幸いだったが、なるべく目立ちたくないリュカにしてみれば、これは失敗だった。
リュカは機が熟すまで目立ちたくないのだ。たとえ、前世での知識を使えば簡単に富と名声が手に入るとしても。
もし、リュカが何も持っていない家庭に生まれたなら話が違ったかもしれないが、リュカは幸運にも伯爵家というある程度富も名声も転がり込んでくる家に生まれた。なら、焦る必要はない、と考えていた。
リュカは自分の知識を使えば、この世界の構造をひっくり返すことも可能だと思っている。だが、それまでだとも。世界を変えられても、美人とイチャイチャできなければ意味がない。
翌日から、リュカは赤ん坊らしく振舞うようになり、メイド達の間で泣いたことがない、という話は出なくなった。
マイラに抱きかかえられてあやされるのは気持ちよかったが、それ以上に恥ずかしかったが。
――この羞恥に耐えられるだろうか……。
排泄すらメイド達に見られてしまう状況に、さすがに不安になる。何年後か先、教育機関に通うのも不安の種だった。勉強のできる、できないではなく、同級生とまともに会話できるのか、という点で。相手は自分を同格と見るだろう。しかし、精神年齢で言えば何回りも上なのだ。
少しばかり憂鬱になるリュカだった。
六年後、リュカの不安は的中した。
――この羞恥に耐えられるだろうか……。
by作者