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世の中でうまく立ち回るために、情報収集はかかせない。
そんな信条と、ハーレムを作りあげるまでの手慰みを探すために、リュカは言語の分からないなりにメイドたちの世間話に耳を傾けた。
最初こそ自分の名前であるリュカ位しかわからなかったものの、二日、三日、一週間、そして一ヶ月と聞いているうちに、だんだんと彼女たちの会話を理解できるようになってきた。時間はたっぷりあったので一ヶ月ただ耳を済ますだけの生活も苦痛ではなかった。
メイド達の会話が正しければ、リュカの家、グレーネス家はこの世界のレティリシア王国という国の、ロークフィード地方を治める伯爵家のようだ。
レティリシア王国がどの大陸に位置する、などの情報は得られなかった。そもそも、異世界なのだからそういった概念がないのかもしれなかった。
父の名前は、ラファラン。母の名前はアデライト。三才年上の兄、ジルがおり、全員が色素の薄い肌、金髪、そして灰色の目をしているらしい。メイドの一人はリュカの家族のことを天使一族と呼んでいた。美形の多い一族らしい。
――僕が薫だったときの世界での、フランス人名ばかり……。
何か共通点でもあるのだろうか。ただ、あったとしてもそれがリュカの「目的」にプラスになるとは思えなかったので「これはそういうものだ」と納得させた。
リュカにとって大事なのは、自分が美形の多い、特権階級の家に生まれたということのみだ。
――まるでそうしろと言わんばかりにお膳立てしてくれるじゃないか。
おまけに、伯爵としての責務を背負わなくてはならない長男ではなく、ある程度自由の利く次男。リュカにしてみれば欲を言えば三男が良かったのだが、そこまでの贅沢は言わないことにした。
文明レベルは、メイド達の会話を聞かなくても分かる。壁に立てられた蝋燭や、壁の彫刻から、中世ヨーロッパが近いだろうか。これも好都合だった。
――あまり発達しすぎていても、その逆でも、ハーレムは作りにくいだろうし。
一つ驚いたことは、この世界には魔法が実在するらしい、ということだった。夜になると蝋燭がひとりでにつき、メイドが何か唱えるとミルクが人肌にまで温められる。そんな光景をリュカは何度か見た。
――催眠だとか、拘束だとか、そういった魔法もあるのかな? あるなら覚えておいて損はないよね。
そんなことをリュカが考えながらメイドたちが働いているのを見ていると、転生して最初に見た人であり乳をくれた人でもあるダークエルフのマイラが気づき、坊っちゃんはどうしたのかと首をかしげた。
一瞬見透かされたように感じたものの、リュカは慌てず可愛らしい笑顔を返し、マイラの乳をせがむ。とっさに乳をせがんだのは、お腹がすいているのも確かにあったが、ほかの理由が大きかった。
「坊っちゃん。またですか?」
困ったように言いながらも、仕事だからか抵抗なく服をはだけるマイラ。健康的な黒い肌と銀色の透き通るような髪のコントラストに息を飲んだ。
「そんなにあげてると娘さんにあげるぶんがなくなっちゃうんじゃないですか?」
まだここに務めて日の浅いメイドが苦笑いをする。そう、母乳が出ることから良く考えれば当たり前なのだが、マイラには娘がいた。リュカより年は一つ上らしい。
マイラはリュカのハーレム計画のトップに名を連ねていたので、彼女が人妻だと知ったときは、美人な彼女を射止めた男を恨んだり嫉妬したが、今はもうそういう感情はない。
マイラの乳に吸い付きながら、リュカは喋ろうとしてみる。
「あら、どうしたの?」
結局ばぶーとしか言えず、マイラが慈愛に満ちた顔で見つめてくる。リュカは相手に伝わらないことをいいことに、無邪気な笑顔で言う。
「親子丼が食べたいな、と言ったんですよ」
3話目の時点で作者の羞恥耐性はもう……
親子丼に深い意味はありません
そういうことにしておいてくださいごめんなさい