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伯爵家の紋章のついた馬車に揺られながら、リュカはぼーっと外の風景を眺めていた。
4人乗りの馬車には、ほかにサルマ、クリス、それにエステルがそれぞれ軽装で乗っている。いつも仏頂面のサルマを除いて、エステルはもちろん、クリスマでもが少し浮ついた雰囲気だ。――もっとも、クリスをよく知っているリュカからしてみると、クリスの浮ついた感じはあくまでもそういう振りだとわかる。
それでも、なぜこんなにもこの馬車が浮ついた、どこか落ち着かない感じなのかというと、この4人でキャンプに行くところだからだ。
「あとどれくらいでつくのでしょうか?」
エステルから、リュカは今日何度目かの質問をされた。貞操を奪われた、という恨みをリュカに抱いているものの、何やら楽しげな「キャンプ」とやらに連れて行ってくれるのも同じ人間というのが気に食わないようで、毎度毎度、しかめっ面を無理やり作るのが面白いな、と思いながら、周りの景色を見て
「んー……あと30分って所ですかね」
と返す。エステルはリュカの返事に、誕生日か、クリスマスが待ち遠しい子供のような顔で「30分、30分」とつぶやくのだった。
そのやり取りを興味なさげに見守るサルマと、にこにこと作り笑いで見つめるクリス。
そして。
――また出費だな……。
と嘆くリュカ。
今回のキャンプはリュカが提案したからとはいえ、全てリュカの財布から出すことになるとは思っていなかった。意外と、もう「おねだり」は使えなくなっているらしい。
しかし、多大な出費を重ねても、リュカはこの「サルマとの親交を深めるためのキャンプ」を敢行させなくてはならなかった。
なぜならば、奴隷商は必ずサルマを取り返しに来るからだ。