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サルマ=セルマ・ヘイロフスキーはリュカの膝の上に座り、長い前髪を手で弄っていた。そんな彼女をラファランは複雑な顔をして、アデライトは新しい娘でも出来たかのようにニコニコと見つめていた。リュカは諦めた様子で、サルマの邪魔にならないよう手を伸ばして白身魚のソテーをほぐしている。
時刻は、8時。サルマが連れてこられたことによるひと騒動が終わり、アデライトの提案による夕食も中盤に差し掛かった頃である。
本当はサルマのための席も用意してあったのだが、彼女はそれに座ろうとしなかった。というよりも、リュカから離れることを嫌がった。
「あらあら、なつかれちゃったわねえ」
などとアデライトが呑気に言い、リュカの前に二人分の料理を用意させて今の状態になっている。
「ほら、あーん」
リュカが食べやすいようにほぐしてやったソテーをフォークにさしてサルマに食べさせてやると、サルマは美味しそうにそれをほおばった。笑顔がはじける。
――困ったな。
サルマに笑顔を返しながら、リュカは別のことを考えていた。
――この子についてまわられていると、活動しづらいな。いっそのこと……。
一瞬、人として最低な解決法を考えたが、慌てて、打ち消した。
――エステルやクリスには僕がどういう人間か多少知られている。多少知られても大丈夫な人間だからあえて知らせている、という点もあるけど。それでも、『そんなこと』をすれば彼女たちがぼくを疑う可能性もないとは言い切れないわけで……。
ソテーをもうひと切れ食べさせてやりながら、また先生に『お願い』することも考えたが、その考えも即座に却下した。
――ダメだね。先生に頼るのも良くない。所詮あの人は金で雇われているだけだ。いつ裏切るかもしれない人にあまり情報を与えすぎるのは良くない、と思う。
なら、どうするか。彼女がこの家を追い出されることはありえないだろう。そして、ラファランは自分に責任を取らせようとすることもリュカには分かっていた。
「お父さん、お母さん。この子のことなんですが」
意を決して、両親に話しかける。二人は手を安め、リュカの話を聞く体勢になる。リュカは二人を見据えて言った。
「僕がこの子の面倒を見ます」
――別に、この子を不憫に思ったとか、そういうんじゃない。ただ、どうせ父はそういった責任の取らせ方を提案してくると思ったから、先手を打っただけ。それだけなんだ。
リュカは自分に言い訳をした。