1
いつの間にか死んでいた平坂薫が、リュカ・L・グレーネスとして転生したとき、最初に考えたのは「この性欲をどうしようか」というひどく下卑たものだった。
生まれたばかりの彼は、年若い乳母に抱きしめられていたが、その胸が当たっているのだ。精神的には24才の一般的な成人男性の彼とすれば、これは拷問だ。
目の前に魅力的な双丘があるにもかかわらず、赤ちゃんなので触ることができない。普通のサラリーマンとして働いていた頃なら、性的に興奮すれば発生していた生理現象も起きない。
リュカは自分の股間を恨めしげに睨んだ。それはどうやら乳母には赤ん坊がぐずっていると見えたようで、よしよしとあやされる。
その拍子に、より強く押し当てられる胸。
――これからそれこそ十年位、こういう生殺しの状況が続くわけか……。自分で慰めることもできず。耐えられるかね?
出た答えは強い否定。
彼は自分があまり人として上等な人物でないと思っていた。
権力を握れば増長し、金を持っても増長する、そういう人間である、と。
そして、彼は自分のそんな性分を変える気がなかった。
だから彼はほくそ笑む。
――前世での知識を使えば、うまくやれる。それこそ、ハーレムとかも作れるかな。