後編
おネコ様の存在がすっかり定着し、身体的にも心理的にも人々にとっての癒しとなっていた。
大聖堂は癒しを求める者たちが国内外から押し寄せ、王侯貴族でさえも日々の癒しを求めるために、密かに大聖堂に通っているのであった。
そんなある日のこと、聖騎士に魔物の討伐の依頼がやってきた。
ワイバーンの群れが王都に向かって飛んできているというのだ。
本来なら、王国の騎士が対応すべきだが、王国の騎士は対人のエキスパートであって、対魔物に関しては弱い。
なので、対魔物のエキスパートである聖騎士に依頼が来たというわけである。
今回の魔物の討伐では、聖女様であるおネコ様も参加することになった。
治癒能力を期待してのことである。
ワイバーンは魔法耐性が高く、物理耐性も高い。
故にワイバーン相手の討伐では、怪我人が続出するのが普通である。
こういう時こそ、聖女様の出番である。
当のおネコ様にお伺いを立てると、
『人間は弱っちいから、ついてってやるのにゃ。』
と、了承してもらえた。
おネコ様が出陣されるとなると、もちろん護衛のリアムも同行することになった。
リアム自身、魔物の討伐が久しぶりのため、とても緊張していた。
しかし、いつも通りのおネコ様を見て、肩の力が抜けるのであった。
これはリアムだけの話ではない。
他の聖騎士にも、同様のことが起きていた。
おネコ様は、精神ケアもできる優秀なネコ……聖女様なのである。
まぁ、若干名、今だにこの光景慣れず、違和感に首を捻っているものもいるが、些細な問題だろう。
移動手段は、当初馬車移動を考えていたが、おネコ様が馬に乗ると言うため、全員馬の移動となった。
おネコ様は、ネコらしくマイペースに、色々な聖騎士の馬を乗り継いでいた。
そんなおネコ様を、一人ハラハラとリアムは見守っていたのだった。
緊張感の欠片もない移動は、目的地に到着したことで終了した。
遮るものなど何もない、だだっ広い平原。
そこが今回、ワイバーンの撃退場所である。
ワイバーン討伐に至って、遮蔽物があると戦いづらいのでこの場所が選ばれたのだ。
聖騎士たちは各自戦闘体勢を整え、その時を待った。
「目標確認!」
「まずは、撃ち落とすぞ!後ろには絶対に行かせるな!」
「「「「「「はっ!!!」」」」」」
『うにゃ?そろそろ仕事かにゃ?』
鼻提灯を膨らませて気持ちよく寝ていたおネコ様は、聖騎士の声に釣られて目を覚ました。
くわっと大きな欠伸を一つ。
腰を高く上げて全身を伸ばした。
『ん?んー……?』
「どうかしましたか、おネコ様。」
『!!あ、あれは!?』
「ワイバーンですね?……はっ、まさか何か……」
『と、り、に、く、にゃーーー!!!』
「おネコ様!?」
『にゃーの、鶏肉にゃー!!食べ放題にゃーーん!!』
かつてないほどの大興奮で、飛び出すおネコ様。
必死で止めようとリアムは手を伸ばしたが、その手は宙を切った。
「……って、飛んだ!いや、跳んだぁ!?」
おネコ様の脅威のジャンプ力は、易々とワイバーンの頭上をとった。
「「「「「「えぇぇぇぇぇーーー!?」」」」」」
ワイバーンの上空におネコ様を認めた聖騎士は、開いた口が塞がらなかった。
『にゃっふふーーーん!』
おネコ様はよく尖った爪を光らせると、勢いよくワイバーンの首を切り裂いた。
そして落ちていくワイバーンの身体を足場に、次々とワイバーンの首を狩っていく。
その動きはまさに、狩りをするネコ。
その場には、興奮状態でハイになっているおネコ様の声と、ワイバーンの悲痛な泣き声が響くのみ。
『と、り、に、くぅー!とっ、り、にっ、くぅ!!』
聖騎士は誰一人として、最後まで動けなかった。
シュタッと華麗に着地を決めたおネコ様は、満足げに尻尾とヒゲを揺らした。
静まり返った空気を不思議に思ったおネコ様は、クルリと聖騎士たちを振り返る。
『?ワイバーンはいつ来るにゃ?まだかにゃ?』
「えーと……もう倒されていますよ?」
『?にゃら、さっさと帰るにゃ。今日は、鶏肉祭りにゃ!皆んなで食い倒れるにゃー!!』
「…………は、はは……」
聖騎士たちは無言でワイバーンを解体し、アイテム袋に入れるのだった。
そんな光景を見ていたおネコ様は、首を捻って呟いた。
『結局、ワイバーンって、どんにゃ魔物だったのにゃ?』
おネコ様の純粋な疑問は、空気に溶けていったのだった。
その後、おネコ様は散歩と称して、魔物の森へと狩りをしに出かけるようになった。
そして、家ネコが飼い主に戦利品を持ってくるように、おネコ様も身体の何倍も大きな魔物を、厨房前の裏口に積み上げるのだった。




