一人
私の話を聞く彼らは、最初から最後まで、完全には信じきれないという態度と表情のままだった。
野次すら飛ばしてこない。本気で、私の言うことが理解できないという風だ。
無理も無い。無理も無い…が、こればかりは押し通さなければ駄目だ。強引にでも信じさせなければ駄目だ。
「もう、何でも良い。私は死ななければ駄目だ。殺してくれ、殺してくれ」
「いやぁ、まあ待てよ。その……一旦落ち着こう」
「落ち着いてはいるさ!さっきまで落ち着いていた!お前達がここに来たから!お前達が、私にこれだけ近寄ってきているから!私はもう、お前達が今にも消し飛んでしまうのではないかと、憂いてしまって仕方ないんだ!私を殺す気が無いのなら、さっさとここから離れてくれ!」
「いや、えーと……うーん……」
ああもう!
もう詭弁でも方便でも何でも良い。
彼らを言いくるめて立ち去らせるしか無いな。
「お前達、まさか私をどこか別の場所に連れて行って、そこでじっくり話そうなどと思っていないだろうな?それはやめておいたほうが良い。この身体は、触られて反射的にびくつくだけでもお前達全員を殺す程の衝撃波を出す。お前達が無事に私を連れて行く術は無い。しかし、私が死ねばそんな反射も起こらなくなる。私をここで殺して安全を確保から、ゆっくり運べばよかろう」
「別に、連れて行こうとは思っていないが……」
「ならば何故、お前達はずっとここにいるんだ?何をするためだ?私を殺さないのであれば、さっさと行けば良い。あるいは、そこの遺骨を回収したいならば、さっさと回収すれば良い。それでも尚、ここでこうして私のところに居続ける理由は、私をどうにかしたいからだろう?つまりお前達は今、私に移動して欲しいと思っているんだ」
「まあ……言われてみれば、そういう腹積もりも無いではないが」
「ほら見ろ。しかし、私を移動させるのは大変だぞ。何故なら、私は身体に一切の力を入れないからだ。例えるなら泥酔している男を抱えて移動させるような、それはさぞかし大変な作業になるだろうなあ?こんなことのために、あまり時間を無駄にするものではないぞ?」
頼む…!
これで、どこかに行ってくれ…!
「だったらこの場でじっくり話してくれよ」
「あっ…」
すまない。
私は詭弁が下手くそなのだった。
「くっ…殺せ!」
「だから殺さないって」
「何故だ!?もう話すことなど何も無い!」
「いいや、お前は錯乱している。きっと、ここで何か大きな爆発があったんだろうな。それを見たショックで記憶が飛び、混乱してしまったんだ」
「違う!私は断じて、記憶が飛んではいない!私の記憶は連続している!私が夢や幻を見たとするなら、それには今私と話しているお前達も含まれる!お前達は幻覚なのか!?違うだろ!」
「落ち着け。夢と現実の区別が付いていないんじゃないのか?自覚が無くても、世の中誰でもそうなる可能性はある」
「夢だと?夢だったらどれだけ…!いや、もう夢であってくれよ!お前達も、私に殺されたそこの男も、この世界も、全て夢だったら良いんだ!しかし裏腹に、その私の想いこそが皮肉にも示唆している!これは現実なんだ!全て、現実なんだよ…!」
「はあ、わかったわかった。好きにすれば良い。もう知らないぞ、ずっとここで動かずにいようと言うのなら、そのうちみっともなく餓死して野獣に貪り喰われても知らないぞ?」
「望むところだ。むしろ、それこそが理想だ。それならそうと、早く行ってくれ。私は今からここで死ぬ」
「むぅ……もう行くぞお前ら!」
……なし崩し的ではあったが。
結局ブラスがそう言ったことで、彼ら一行は私のことを気にしながらも、無事に立ち去って行った。
私はまた、一人になった。
焼けた草木に囲まれて、もうすっかり冷めた遺骨を眺めながら、地面の窪みの中央に、アリジゴクのように居座ったまま、独りになった。
けれど、本当は。
彼らに、行かないで欲しかったような……
……否。これで良い。
人は学ぶものだ。何かをしようとすること自体が、問題を解決しようと行動すること自体が問題なのだと、私は学んだ。助けを求めることこそが間違いだったのだと、私は学んだ。
ずっと、ここにいよう。
人は、飲まず食わずでいるとどれくらいで死ぬのだろうか?わからないが、大方ほんの数日待てば死ねるだろう。
まあいい。たった数日の辛抱だ。
たったそれだけの時間を、全く微動だにせず過ごすだけだ。
私は今まで二十年余りの年月を生きてきたが、とは言えそんな規模の時間に比べれば、たかが数日の間このような時間を過ごすことが何だと言うのだ。
できる。間違いなく、私にはそれができる。
私は、ここで死のう。
これで、良いんだ。
「あ、ああ……まずい。身体を動かす訳にはいかないのに」
参ったな。
何故だろう?今更のように、涙が出る。鼻水も出る。
待ってくれ、今は手を動かせないんだ。
出ないでくれ、拭き取れなくて不快だ。
うわぁ、気持ち悪い……どうして出るんだ?
これも試練なのか?
この、涙や鼻水を拭うことができない不快感に耐えるという苦行を、乗り越えれば良いのか?
あるいは、これは神からの罰なのか?
これを忍べば良いのか?凌げば良いのか?
その程度で良いのか?
然らば、そうしよう。
本気で耐えればこの程度のくすぐったさ、何ということもなし。
集中しよう。今はただ、身体を動かさないことに……
集中だ。




