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代わりの花嫁1

「あんまりですわ陛下!ラピスは、まだ15ですのよ?」


ぽかんとして何も言えずにいる私のとなりで、母が声を上げた。

お父さまを前にこんなに大きな声を出す母は初めて見る。


「わかっている、だが第四王女は10だ。ラズリーのリアトリス殿とは15歳も離れていることになる」

「それは…そうですが…」

「私も、このような目にラピスをあわせたいわけではない……」


本当に苦しそうに、お父さまが言う。

それはそうだろう。

ローズお姉さまだから、祝福された結婚だったのだ。正妃さまの第一王女で、モルガン王家そのもののような淡いピンク色の髪で、15年も前から約束していた結婚だったから。

ローズお姉さまが駆け落ちしたと聞いたら、きっとラズリーは怒るだろう。そして暗い紺色の髪の私を見てがっかりするに違いない。ローズお姉さまみたいに美しくも華やかでもないし、まだまだ子供できっと婚姻用のドレスも全然似合わない。でも…。


「ローズお姉さまが、『本物の愛』を見つけられたのは素晴らしいことですわ。私も応援したいと思います」


まるで物語みたい。

ローズお姉さまのような、特別な方によく似合う。


「私、ラズリーに以前から興味がありましたの。鉱山が多い国だとか。それに山が高いから、美しい川が多いと聞きましたわ。商人が持って来た絵を見たことがあります。私も絵を描いてみてもいいかもしれませんわね。そうしたらお父さまにお贈りしますわ」

「ラピス…、」

「それから、ドレスもモルガンとは違うのでしょうね?確かレース刺繍が美しいとか…。私にもできるかしら。きっとお贈りしますから、楽しみにしていらして、お母さま」


私の言葉に、母は泣き崩れた。



それからは慌ただしかった。

ラズリーには事の次第を説明し、謝罪するためにジュリアンお兄様が遣わされた。ローズお姉さまと同じ正妃さまのお子様で第一王子ということで、精一杯の誠意を見せた形だ。もちろんお詫びの金品はたくさん持って行ったようだ。

私の絵姿も渡されたらしい。先方の反応は悪くなかったとジュリアンお兄様は言うが、どこまで本当かはわからない。お兄様の笑顔は引きつっていたように見えた。

国民に対しては王からのお達しが国中のあちこちに建てられた。もちろんローズお姉さまが駆け落ちしたなどとは言えないから、表向きには急病ということになっている。その代わりに、第三王女であるラピスが嫁ぐことになったという筋書きのようだ。


私はというと、ラズリーのことをひたすら勉強した。嫁ぐ国がどんなところか分からずに行くわけにはいかない。その一方で婚礼用の衣装や道具の準備、人員の選定などまさに寝る暇もないほど忙しい。もう婚礼の日まで、二月ほどだ。すべてを一から仕立てている時間はなかった。ローズお姉さまのために仕立てられた衣装を私のために直している姿を見て、母はまたほろほろと泣いた。


「わたしの大切なラピスのために、ドレスも用意してあげられないなんて…」

「私気にしてませんわ、お母さま。そんなに泣くと、ラリマーが心配します」


幼い妹、ラリマーはまだ9つだ。姉が嫁ぐという意味もよくわかっていないのか、あの日からずっとおろおろしている。


「そうね、泣いてばかりでは…だめね。1着だけでも、あなたのためにドレスを仕立てますからね」


普段はわがままなど言わない母が、お父さまに国で一番の仕立屋を連れてくるようにと強く言ったという。

私はその気持ちが、とても嬉しかった。


そんなことをしているうちに、二月はあっという間に過ぎた。


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