1-3
お父さまの声が、室内に静かに響いた。
誰もが驚き、言葉を発せずにいた。普段は天真爛漫な幼い王子や王女たちも、何か恐ろしい雰囲気を感じ取ったのか静かにしている。
「それは…どういう、」
沈黙を破ったのは、東の妃様だった。
東の妃様は正妃さまに劣らない高貴な家柄の側妃さまで、私は普段あまりかかわりはないけれど苛烈な性格の方だと聞いている。
「護衛の騎士と、恋仲だったらしいのだ」
「護衛の騎士というと…たしか、ルベライト家の次男か三男でしたかしら?ジュリアン様のご学友の…」
東の妃様が咎めるように、正妃様の一番目のお子様である第一王子・ジュリアンお兄様を見た。
その視線を受けたジュリアンお兄様は、驚いたことにきりっと東の妃様を見返した。
「ふたりの愛は本物だったのです。私は、ふたりを応援したい」
「まぁっ、ご存知だったのですか?まさか知っていて、出奔をお手伝いなさったのではないでしょうね?」
「だったらなんだと言うのです?」
「ラズリーとの婚姻を控えているのですよ!責任問題ですわ!」
東の妃様の言い分はもっともだ。
だがお父さまは真っ青な顔でこめかみを揉みながら、東の妃様を制した。
「それはわかっておる。今は責任をどうこう言っている場合ではないのだ」
「陛下…っ!しかし、」
「問題は、ラズリーに詫びて済むという話ではないのだ」
この婚姻は、15年も前から決まっていたことだ。今更なしに、などというわけにはいかない。婚姻関係を結ぶという約束でモルガンはラズリーの鉱山を手に入れたのだし、それを補填するために支援もした。婚姻がなされなければ、当然鉱山を返せという話になるだろうし、それ以上に莫大な謝罪金を要求してくる可能性もある。ラズリーが顔に泥を塗られたと怒れば、最悪戦争になってしまうかもしれない。
「この婚姻は、為されねばならない」
「ですが、ローズ様は…、では……」
第一王女がいないなら…。
その場にいたほとんど全員が、第二王女・ダリアお姉さまを見た。正妃さまのお子様であるダリアお姉さまは、この展開を予想していたのかぶるぶると震えている。
「わたくしには…っ、シャガ様が…っ、」
ダリアお姉さまにも婚約者がいる。
ローズお姉さまが嫁ぐのを待ってから、オパリオス公国のシャガ様とご結婚されるのだ。シャガ様はモルガンの属国であるオパリオスの第二王子で、年に数度ダリアお姉さまに会いに来ていた。とても仲睦まじいようすで、それはほほえましいおふたりなのだ。
「ダリアには、酷だろう。仕方ないが……」
お父さまはす、と視線を動かした。
そして…私と目が合ったのだ。
「え…?」
「ラピス。お前しかいないのだ」
お父さまが、痛ましい表情で私に言った。




