1-2
私たちが案内の者に連れていかれたのは、本宮の王の私室だった。王の私室に招かれたのは、実は初めてのことだ。本宮に住む正妃さまと正妃さまのお子様であるお兄さま・お姉さま方はここでお父さまに会うのかもしれないけれど、私や側妃であるお母さまがお父さまに会うのは基本的に私たちの住む離宮か、公的な儀式がある時は本宮の謁見室などに限られた。
王の私室には、すでに王と正妃さま以外の王族が勢ぞろいしていた。
正妃さまのお子様方と、東の妃様と呼ばれるお父さまのもうひとりの側妃さまとそのお子様方だ。
離宮は離れたところにあるとはいえ、私たちが皆さまを待たせたと思うと申し訳ない。
「遅くなりまして、申し訳ありません」
母が言うのに倣って会釈をしながら空いている席に座る。
だが、席についてから私は違和感に気付いた。
ローズお姉さまがいない…。
正妃さまのお子様方は、ローズお姉さま以外皆さまいらっしゃるのに……?
だが誰に問うこともできない。
今までにない事態に、誰もが張りつめていた。
「国王陛下、王妃陛下のお成りでございます」
先ぶれの者がやってきてそう告げる。
みな立ち上がり、入り口に向かって頭を下げた。
私室ではこんなふうに入室することは普通、あまりない。先ぶれの者も、私たちも、そしてお父さまも正妃さまも混乱しているようだった。
席に座ってからそのことに気付いたのだろう、お父さまは慌てて「良い、良い。みな席に着きなさい」と言った。いつものように威厳に満ちた優しい声だったが、わずかに声が震えているようにも聞こえる。
お父さまの言葉に従って、席につく。だがお茶も運ばれてこないし、侍従もメイドも誰ひとり来ない。厳密に人払いをしているのかもしれない。
「突然のことでみな驚いたとおもう。集まってもらったのは…ローズのことだ」
お父さまははぁ、と重い溜息をついた。
「ローズが…駆け落ちをした」