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王女の駆け落ち1

その日は朝から、なんだか嫌な予感がしていたのだ。

私は王宮の端の小さな離宮に住んでいる。母と妹といつも通り朝の紅茶をいただいていると、テーブルの上の花瓶が急に真っ二つに割れた。

テーブルが水浸しになり、美しく活けられた薔薇が散らばる。母と妹は無事だったが、私のドレスはこぼれた水でぐっしょり濡れてしまった。


「まぁ!ラピス、怪我はない?」

「大丈夫ですわ、お母さま。ドレスが少し濡れてしまっただけ」


控えていたメイドがすぐにやってきて、私は部屋に戻る。メイドは本当に申し訳なさそうに、私に頭を下げた。


「申し訳ございません、ラピス様。花瓶など割れるものは不備がないかいつも点検しているのですが、見落としがあったようです」

「いいのよ。ドレスが濡れただけだわ」

「今後はこのようなことがないように、気を付けますので…」


そう言っていたのにドレスを着替えて戻ると、今度はカップの持ち手がぽろりと落ち、紅茶がかかってしまったのだ。


「あつ…っ、」


カップには当然、熱い紅茶が入っている。私は足に少しだけ火傷をしてしまった。

これにはさすがに気の優しい母も怒ってしまう。


「なんてこと…!ラピスに火傷の痕でも残ったら……!」


私は急いで部屋に戻って火傷の痕を冷やされたが、その間も動転した母がメイドに詰め寄る声が聞こえていた。

メイドは震える手で私の足を冷やし続けている。


「もう熱くないわ」

「いえ、ラピス様。痺れるほどに冷やさなければ痕が残ってしまいます。どうか辛抱してくださいませ」


痕が残ったら、メイドが叱られ、最悪何かの罰を受けてしまう。私は大人しく足を冷やされ続けた。



「本当に、今日は朝からさんざんだったわね、ラピス。もう痛みはない?」

「痛みませんし、侍医が軟膏をくださいましたわ。毎日塗れば、痕も残らないと言っていました」

「そう。それならいいけど」


午後になって、母は私を見舞いにやって来た。


「メイドをあまり叱らないでやってくださいましね、お母さま」

「本当に、あなたは優しい子ね。でも、本当にびっくりしたわ」


母付きのメイドが、うまく宥めたのだろう。私はほっと息をついた。


「午後はローズお姉さまのところに行く予定だったのですが…」

「今日はやめておいたほうがいいわ。もし万が一、足がまた痛んだら困るもの」

「まぁ。お母さまったら……」


母のあまりの心配ぶりに、私は苦笑した。大事にされているということだろうけど…。


「し、失礼します!」


談笑していた私の部屋に、不自然なほど大きな声が響いた。しかも、離宮のメイドの声ではなく男性の声だ。離宮には普段男性はおらず、いるとしたら誰かから遣わされたということになる。


母は眉根を寄せた。


「そうぞうしいこと。何事かしら?」

「陛下のお召しでございます!すぐに、王族の方は皆、本宮へ」

「すぐに…ですって?」

「はっ、速やかにとのことでございます!」

「まぁ…たいへん」


また足が痛んだら、なんて話ではない。

陛下が速やかに、などと言って私たちを呼んだことは今まで一度もない。

メイドたちが慌ただしく動き始めた。母はともかく、私は怪我をして今日は部屋から出ないつもりだったので、陛下にお会いできるような服ではない。髪も簡単に、ひとつに結っているだけだ。


最低限身だしなみを整えて、私たちは慌ただしく本宮へと向かうことになった。


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