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は、と目を覚ますと、大勢の人が私を覗き込んでいた。
ラピスのお母さん、妹、お母さんの違う兄弟たち……そして、一番近くにいたのは、あの憎たらしいラズリー王子だった。
「あ……私……?」
状況がうまく飲み込めず、なんとか絞り出した声は、ラズリーの物だった。
……あれ?もしかして私、ラズリーの身体に入っちゃってる!?
「ラピス、急に倒れたのよ。覚えてる?やっぱり、まだ本調子じゃないのよ」
ラピスのお母さんが、泣きそうな顔で言う。
あぁ……やっぱり、ラピスは意識を失ってしまったんだ。それで代わりに、私が『表』に出てきてしまったということか。
一番近くにいたラズリー王子が受け止めてくれたのだろう。さすがに焦った表情で私を見ている。
「やっぱり、お披露目は中止にしたほうが……」
お母さんはそういうが、それはさすがにまずいだろう。意識を失っていたのは一瞬のことで、バルコニーにラズリー国王がゆっくり出ていく背中が見えた。この状況でラピスが出ていかないのがどういうことか…どれだけ国民に不安を与えるか…それはラピスが一番避けたかったことだ。
「いえ、大丈夫ですわ、お母さま」
ラピスの話し方ってこんなこんな感じであってるかな。
私はラズリー王子に支えられながら、立ち上がる。さすがにこんな状況では、ラズリー王子もサポートしてくれるんだ。もっとも中身はラピスじゃなくて瑠璃だけど。
みんなの心配そうな視線に、微笑んで頷いた。
「行ってまいります」
やはり足元はフラフラする。ラズリー王子が支えてくれなければ、また倒れてしまうかもしれない。私は心配したが、さすが王子というべきか、しっかりとエスコートしてくれている。
バルコニーに出ると歓声が聞こえた。
王女様おめでとうございます、お幸せに、そんな声が聞こえる。バルコニーに向けて、大勢の人が手を振っていた。先にバルコニーに出ていたモルガン国王たちに倣って、微笑んで手を振る。これがお披露目か。こういう光景を、テレビで見たことがある。お正月の皇居で行われているような、あんな感じなんだろう。
「……その。具合が悪いなら悪いと、言ったほうがいい」
高い位置から、小さな声が聞こえた。顔の位置はそのままで視線だけでラズリー王子を見ると、少し気まずそうな表情をしている。
なによ、その顔は。
私はイライラした。ラピスはいつでも微笑んでいるのに。
「国民の前で、そのような表情はお控えになってください」
私はぴしゃりと言った。ラピスだったら、ラズリー王子に気を遣って言わなかったかもしれない。それとも国民の前だから、言ったかな?
正解はわからない。
だがラズリー王子の見せた驚いたような表情を見ると、ラピスは言わないことだったのだろう。それでも、王子はこく、と頷いて国民に笑顔を向けた。
「……それから、具合が悪いなんて言えるような状況だったか、ご自分の態度を思い出してみられては?」
あぁ、もうこれはラピスじゃなくて、完全に瑠璃の言葉だ。
でも言わずにはいられなかった。
この男の、ラピスへの態度は許しがたい。
それからの10分弱は、私もラズリー王子も笑顔を張り付けてひたすらに手を振っていた。