3-5
「実は、さっき瑠璃が寝ている間に一度起きてみたんです」
「起きてみた…?」
ラピスの言葉に首を傾げた。
「私はさっきこの部屋にいる時、あのてれびで瑠璃のようすを見ることができました。その中で瑠璃が起きているようだったので、私も起きればいいのではないかと思ったんです」
なるほど…?
ラピスは、「起きたいと思えば起きられましたよ」と言う。すると今までと同じように自分の身体を何の問題もなく動かすことができたという。
「つまり…私たちは、ラピスの身体を共有しているってこと?一心同体って、そういう意味?」
ラピスは頷いた。
「瑠璃の身体がどうなっているのか、わかりませんが……」
「あ……っ、」
私はそこで思い出した。
横断歩道で聞こえた大きな音。そして眩しい光……。
「私……死んだんだ……」
さぁ、と血の気が引くのを感じた。がたがたと身体が震えだす。
そうだ…きっと、車か何かにひかれて……それで……。
何が起こったかわからないけれど、私の魂のようなものだけが、ラピスの身体に入ってしまった……?
「瑠璃、」
ラピスが心配そうに私を覗き込んだ。ガタガタと震える私の手を握ってくれる。
「だいじょうぶよ。だいじょうぶ……」
歌うような優しい声。ラピスが本当に優しい子だというのがわかる。
自分だって大変な状況だ。しかもまだ15歳の女の子。不安も大きいだろう。しかも自分の身体を好き勝手動かされて、面白いはずがない。それなのに……。
私より、10歳も下の女の子なのだ。
私がしっかりしなきゃ。私はぐっ、と口を引き結んだ。
「ありがとう、ラピス。もう大丈夫」
私の顔を見て、瑠璃は少しだけ微笑んだ。見る人を安心させるような、優しい表情だった。
「これからどうなるのか、よくわからないけれど…よろしく、ラピス。私はラピスの人生を邪魔するつもりはないから。寝てる間も、疲れてて相手をしたくなかったら無視してくれていいし」
「そんな。良かったら、お話しましょう。もし瑠璃が外に出たいと思ったら、えぇと、周囲の人にばれないようにすれば……」
「ラピスって王女様なんでしょ?ばれないように…なんてできるかな。とりあえず、数日はここからラピスを見てるね」
テレビでずっとラピスが見れるなら、退屈もしなそうだ。
とりあえず、いつかのためにラピスのふりを研究するしかなさそうだった。