3-3
「あの、申し訳ありません」
「……」
「あの、……あのぅ」
鈴のなるような可憐な声とともに、肩をとん、とん、と優しくたたかれる。
私は…まだ夢の続きなのか、と思ってまどろんでいたが、その声にばっ、と起き上がった。
さっき、私の口から出た声だ。
「えっなに?なに?これ」
「お目覚めになりましたか?」
目を覚ますと、そこはさっき目を覚ました時に見た豪華なベッドだった。そのベッドのふちに少女が腰掛けている。
暗い紺色の髪に蜂蜜のような瞳の少女は、まるでお人形のようにかわいらしかった。そして…ベッドの向こうは何もない、まっしろな世界が広がっている。
「え?なに、ここ……」
「わかりません。ですが、あなたはさっき私の身体で、メイドや母と話していた方ですよね?」
「私の身体……え!そういうことなの!?」
少女はこくりと頷く。わけがわからないが、確かに私はこの少女の身体にいたのだ。だから声はめちゃくちゃかわいかったし、とんちんかんなことをいう私の様子がおかしいとみんなが泣いていた。
「あなたが話している間、あれが……」
少女はつ、と手で示した先には、チェストがあった。そのチェストは私の部屋の物で、上に小さなテレビが置いてある。
「あれが、光りだしました。そしてあなたの見ている光景がうつったのです」
て、テレビに……。
「あれは、なんですか?私は見たことがありませんが……」
「あれはテレビと言って、私の部屋にあったもので……でも、なんでここに……」
私は改めて、ぐるりと周囲を見渡した。
終わりのないように見える、まっしろな部屋だった。天井も壁も床も繋がっているように見える。その中に、見覚えのない豪華なベッドとローテーブル。そして私の部屋のチェストとテレビがある。
「てれび……?」
「遠くの景色を、映し出すものです」
「そうなのですね。……私の身体や声で、私ではない人が話しているのは、なんだか不思議でした」
まるでのっとりだ。
私はあわてて頭を下げた。
「すみません!私、そんなつもりじゃなくて……あなたのお母さんや、メイドさん?を泣かせてしまいました……!」
「まぁ、頭を上げてください。あなたの気持ちは、なんとなくわかります」
なんとなく、わかる?
私が首を傾げると、少女はこくりと頷いた。
「あの、てれびを見ている時、あなたが母やメイドを気遣ってくれる気持ちが伝わってきました。それは、きっと嘘ではないと思います」
少女は自分の胸に手を当てて微笑んだ。それは、私が少女の身体で話していたからだろうか?それでも、申し訳ない気持ちがなくなるわけではない。
「それでも…すみません」
「お優しい方なんですね。……お名前をうかがっても?」
「あ、私は…瑠璃といいます。今野瑠璃です。」
「瑠璃。私はラピスと申します。ラピス・モルガン。モルガン王国の第三王女です」