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運命の出会い.1

学生の頃から、趣味といえば読書だった。

でも就職してからは、なかなか本を読む時間が取れない。そんな時にたまたま立ち寄った本屋で見かけたのが、『騎士とモルガナイト』だった。最近忙しくて情報収集できていないが、『騎士モル』はそれでも名前を聞くほど最近流行っている。


拍子はピンク色の髪の美少女と、かっこいい鎧を着た青年。よくある恋愛物だと思ったが、最近本を読んでいないし軽く読めるような小説を、久しぶりに読みたかった。

ちょうど今日は金曜日で、土日には何の予定もない。

私はこの週末、ゆっくりと読書をすることにした。



結論から言うと、この小説は私には合わなかった。

美しく優しい王女と、その騎士の禁断の恋、そして駆け落ち……。

禁断の恋、まではいい。


「王女なのに後先考えず駆け落ちって、勝手すぎるでしょ!」


最後のページまでしっかり読んだ後、私は一人暮らしの部屋で思わず声を上げた。

小説はすごく良かった。流行るのもわかる。丁寧な心理描写は感情移入しやすくて、騎士を思う王女の切ない気持ちに、思わず涙ぐんでしまったくらい。だが、ラストはいただけない。

すべてを捨てて国境近くの小さな村に駆け落ちする王女。最初は反対したけれど、王女の兄である第一王子がそれを支援して、華やかではないが愛する人と一緒に幸せに暮らす。


って、おいおい。

となりの国の王子と婚約してたんだろうが。

国交に関わる大事な婚約だって、作中で何度も強調されていた。それが、ふたりの悲恋をより切なくさせたのだ。

そりゃ、私も途中から、『あーこれ駆け落ちしそうだな』とは思った。だって愛し合うふたりだもん。ハッピーエンドがいいに決まっている。大多数の人はこの結末に満足したと思う。だからこんなに流行って、漫画化もアニメ化も決まっているのだ(帯にそう書いてあった)。


でも……。

私は、つい『この後』を考えてしまう。


王女が婚約していた王子は、どんな気持ちなのかなぁ。婚約が成立した時、つまりまだ子供の頃のようすがちらっと描写されただけだけど、幼い王子はいい子そうで王女だってうまくやっていけそうと思っていたのだ。その気持ちを裏切ったことになる。

それに、国交はどうなるんだろう。ふたりの婚約によって、国同士が強く結びつき、発展する……はずだった。それなのに、王女は駆け落ちしてしまった。婚約は破棄して、何もかもなかったことになるんだろうか?それって、相手の国はとんでもなく怒るんじゃないか?戦争になったりはしないのか?それとも、別の王女が代わって結婚したりするんだろうか?


そんなこと気にしなくてもいい、とわかってはいる。

だってこれはお話で、めでたしめでたし、で終わった。誰も不幸になんてなっていないのだ。だから余計なことだとわかっているのだが……。


「でも、他人事じゃないんだよなぁ」


かわいくて、容量のいい子の尻ぬぐいをさせられてきた人生だった。

2歳年下の妹はかわいくて甘え上手。私にとってももちろんかわいい妹だったが……。


「いやいや、こんなこと考えるのはやめよう。せっかくの週末なんだから」


すごく読みやすくて面白い小説だったのは事実だった。

だから、買ってすぐ読みだしてしまって…まだ土曜日にもなっていないのに、読み終えてしまった。


「コンビニに行って、夜食でも買おうかな」


それで、サブスクで何か映画でも見よう。楽しい週末の仕切り直しだ。

私はスマホだけを持って部屋を出た。コンビニはすぐそこだ。

マンションを出て、コンビニに続く横断歩道を渡ろうとした時鼓膜が破れるくらい大きな音を聞いた。私は音の方を見て、眩しい光に包まれて……


そこから、記憶がない。


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