駆け落ちした姉の代わりに隣国に嫁ぎます! プロローグ
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姉の駆け落ちにより、突然隣国に嫁ぐことになった少女・ラピスの物語です。
私、ラピス・モルガンにとって、ローズお姉さまは憧れの人だった。
由緒正しきモルガン王家の血脈を示す、淡いピンク色の髪。いつも優しくて、身分の低い側妃を母に持つ私にも気軽に声をかけてくれた。その名の通り薔薇のように華やかで美しいローズお姉さまは、「モルガンの薔薇」と呼ばれ私だけじゃなくて国民みんなに好かれ、憧れの的だった。
ローズお姉さまには子供の頃からの婚約者がいた。隣国・ラズリーの第一王子だ。私は会ったことはないけれど、お優しくてかっこいい人だという。夜明けのような紺色の瞳が、それは美しいのだとか。
それはきっと、美しくて祝福されたふたりになるのだろう。私は美しいふたりが並んだ姿を想像して、うっとりした。正式な婚儀はラズリーで行われるが、モルガンでも3日かけてお披露目をする予定だ。
実はモルガンとラズリーは、私が生まれるくらいまであまり仲が良くなかった。それが、ふたりが婚約するという条件で和平が結ばれたのだ。つまり両国の国民に、もう仲良くなりましたよ、モルガンとラズリーは家族ですよと知らしめるためのお披露目というわけだ。
ローズお姉さまは3日で10着以上のドレスを来て、一日に5回、ラズリーの王子とともに王宮のバルコニーから国民に顔見せをすることになっていた。もちろんその場に、王族の端くれである私も同席する。
「ローズお姉さま、どれも素敵なドレスね。お姉さまはお綺麗だから、どれも似合うわ」
ドレスを合わせる時に、私も少しだけ同席させてもらった。婚礼用のドレスは、いつも着ているドレスよりもとても素敵に見える。見ているだけでワクワクした。
「本当に。ローズ様はどの色も、どんな形もお似合いになりますから。かえって悩みますわ」
「こちらの生地もいいでしょう?でもこちらも捨てがたいですわ」
「合わせるジュエリーも髪型も、本当に迷いますわ」
仕立屋もメイドも、誰もがニコニコしていた。結婚って幸せだなぁ、と私は思ったのだ。
それなのに、当のローズお姉さまはどこか浮かない顔をしていた。
「お姉さま?何か心配ごと?」
私がそういうと、ローズお姉さまははっとしたようにいつもの華やかな微笑みに戻って、首を振った。
「大丈夫よ。……でも、みんなと離れるのが、少し寂しいのかもしれないわ」
「まぁ!私、お手紙を書きますわ。お姉さま」
「住み慣れた国を離れるのはご不安もありましょうが、メイドも半分は付いていきますから」
私の言葉に続いて、メイドのひとりがそういった。
隣国にメイドの半分も行くし、お姉さまの乳兄弟も、それに護衛の騎士も馴染みの者がついていく。
住む場所は変わってしまうが、お姉さまの立場を考えればラズリーでも十分大切にされるはずだった。少しいじわるな考えだが、モルガンはラズリーよりも大きな国なのだ。もしお姉さまがいじわるされたら、現国王であるお父さまが黙っていないだろう。
「そうね。ありがとう、みんな。大丈夫よ」
「嫁ぐ前は、誰だって少し不安に思うものですよ」
年配の、結婚しているメイドがそう言った。私にはまだ経験がないけれど、そういうものなのだろう。きっとそのうち、気持ちも落ち着くはずだ。
そう思っていたのに。
それから数か月後、ローズお姉さまは王宮からいなくなった。
実は恋仲であったという護衛の騎士と、駆け落ちしてしまったのだ。