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SF短編集

宇宙遺失物取扱所

今回の話は、宇宙の「忘れ物」係。

 僕の職場は、宇宙の果てにある。


 正式名称は「宇宙遺失物取扱所」。この宇宙で失われた、ありとあらゆるモノが、最終的に流れ着く場所だ。僕は、もう何億年も、ここのたった一人の管理人をしている。


 目の前の巨大なコンベアからは、絶えず「落とし物」が流れてくる。


『品名:靴下(片方のみ) 所有者:地球人、タナカ氏 遺失場所:洗濯機の中』

『品名:やる気 所有者:アンドロメダ星雲の営業マン 遺失場所:月曜の朝礼』

『品名:古代ズールー文明の全ての歴史書 所有者:ズールー星人一同 遺失場所:大火災』


 僕は、それらを淡々とスキャンし、分類し、無限に広がる棚へと収めていく。持ち主が受け取りに来たことは、一度もない。忘れられたモノたちの、静かで、巨大な墓場。それが、僕の世界の全てだった。


 ある日、コンベアから、見たこともないものが流れてきた。


 それは、モノではなかった。暖かく、か弱く、明滅を繰り返す、小さな光の球。


 僕は、それを慎重にスキャンした。


『品名:希望 所有者:人類 遺失場所:地球全体』


 僕は、思わず立ち上がった。一個人が希望を失くすことは珍しくない。だが、種族全体が、丸ごと希望を失くすなど、前代未聞の大事件だ。これは、もう、その種族が滅亡寸前だということを意味する。


 僕の仕事は、あくまで落とし物を「保管」することだ。持ち主に返すためには、厳格なルールがある。『遺失物返還法 第74億2128万条 B項:所有者本人、または代理人が、所有権を証明するに足る「物証」を提示した場合に限り、返還を認める』。


 だが、希望を失くした人類に、かつて希望を持っていたことなど、どうやって証明できるというのだ?


 僕が、巨大な規定書のページを途方に暮れてめくっていると、コンベアから、また一つ、地球からの落とし物が流れてきた。


 それは、一枚の、薄っぺらい紙切れだった。


『品名:宝くじ(ハズレ) 所有者:地球人、サトウ氏 遺失場所:ゴミ箱』


 僕は、そのハズレくじを、無感情にスキャンした。だが、その時、ごく微量な「感情の残留思念」を検知した。


 それは、「どうせ当たらないだろうな。でも、もしかしたら……」という、根拠のない、非論理的で、実に馬鹿げた、一縷の望みの残り香だった。


 僕は、ハズレくじと、か弱く明滅する「希望」の光の球を、交互に見た。


 そして、静かに、返還手続き用のスタンプを手に取った。


 僕は、人類の「希望」の管理ファイルに、力強くスタンプを押した。


「所有権の証明、受理申請」


 そして、添付書類として、サトウ氏のハズレ宝くじをファイルに挟んだ。


 僕はどきどきしながら、人類の「希望」を、返送用のコンベアに乗せた。頼む、受理されろ!

 論理的に考えれば、暴論だ。だが、万が一、いや、百億光年が一の可能性はあるっ!


 そのとき、コンベアの上にある古ぼけたランプが『青』に点灯した。


『受理しました』


 僕は緊張から解き放たれ、ほっと胸をなで下した。


 宇宙の法則とは、時に理屈を超越する。当たるはずもないと分かっていながら、それでも「もしかしたら」と願ってしまう、その愚かで、愛おしい感情。それこそが、「希望」を持っていたことの、何よりの「物証」ではないか?


 光の球は、ゆっくりと宇宙の闇へと帰っていく。


 僕は、それを見送ると、また自分の席に戻った。コンベアから、新たに、名前の書かれていない一本の傘が流れてくる。僕は、いつも通り、それをスキャンし、分類し、棚へと収めた。僕の仕事は、何も変わらない。

どうだ、バカバカしいだろ? 人類の希望の引換券が、ハズレ馬券ならぬハズレ宝くじなんだからな。でも、そういうもんだろ、希望ってやつは。理屈じゃねえんだよ。

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