アカシックレコード
ルカの声は震えていた。
「アカシックレコードの……開示資格保持者……!? そんなもの……この世界には始祖神を除けば、実在が確認されているのはたった二人だけ……その一人は数百年前に喪失……もう一人の所在は不明だったはず……それが――」
彼女はノームを指さし、足元が崩れたようにその場にへたり込んだ。
「なぜ……よりによって、こんな私設裁判の場に……!」
ルカは泡を吹いて、ぶくぶく言いながら倒れかける。
「こんなふざけた場で……始祖神に準ずる存在が裁かれるなんて……本来、審神者の儀式すら必要なはずなのに……ッ!」
その横で、ノームは無邪気に、いや誇らしげに、片手を高く掲げて――
「持っててよかったー! アカシックレコードの開示資格~!」
人差し指と中指で、ブイッと勝利のサイン。
もちろん実際にポーズを決めていた。
ミリウスは思わず頭を抱える。
(……こいつ、どこまで天然なんだ)
ルカに聞ける空気じゃなかった。彼女は今、精神的にリカバリー中で、口から出るのは悲鳴か呪詛だけだろう。
ノームは、そんなルカを「がんばれー」って感じで見守っていた。
だが、その瞬間。
マークワンが一歩、前に進み出る。
その機械的な声は、いつにも増して重みを帯びていた。
《神階基準を上回る存在が証人席に立っても、裁判の正統性には影響ありません。
よって、ここに――裁判の再開を宣言します》
「――開廷」
無機質な響きが、場の空気を張り詰めさせる。
ミリウスは小さく、聞こえないように舌打ちした。
(……今のドタバタで、うやむやになると思ったのに。
……俺、まだ正座したままなんだが)
マークワンは動じない。
ノームはニッコリ笑って、自分の席にふわっと座った。
彼女が笑うたび、空気が軽くなる。
でも――この場における彼女の“権威”は、もはや誰も否定できない。
“アカシックレコードに指先をかける資格を持つ者”
今や、誰よりも“神”に近い少女が、
“おふざけ気味に”――この裁判の弁護席に、いるのだった。




