行動力
ルカの行動力を目の当たりにしたエルミィは、ついに決意を固めた。
(いま動かなきゃ、きっと後悔する――)
ノームの膝枕で蕩けているミリウスのもとへ、真っ直ぐに歩み寄る。
「お兄ちゃん、一寸こっち来て。」
「あと三十八分あるんだけど……」
「いいから、来い。」
エルミィは有無を言わせぬ声でミリウスの腕を掴むと、ノームに向かってひとこと。
「すみません。うちのが長い間お世話になって。ご迷惑でしょうから、そろそろ連れていきます。」
ノームは柔らかな笑顔で返す。
「いえいえ、ご迷惑なんてとんでもないです。ミリウスさんが居たいだけ、居てもらって結構ですよ。私も楽しいし。」
その言葉を無視して、エルミィはぐいっとミリウスの首根っこを引っ張る。
名残惜しそうにノームを見るミリウスに、ノームは微笑みながら言った。
「またいつでも、遠慮なくいらしてね。」
その一言で、エルミィの手にさらに力がこもった。
――そして、距離を取った場所で、エルミィはミリウスを正座させた。
「正座」
「はい……」
ミリウスは素直に従う。
周囲には、ウィンディーネ・イフリート・シルフ、そしてノーム以外の精霊娘がオブザーバーとして控えている。エルミィの暴走を止めるための“安全弁”だが――正直、彼女たちにそこまでの信頼は置けない。
「マークワンも居てくれたら良かったんだけど、あいつが居たら命をかけた戦いになるから、今日は除外で」
そう言うと、エルミィはミリウスを鋭く見据えた。
「はい、反省して」
「……反省してます」
「じゃあ聞くけど、何で私が怒ってるのか分かってる?」
「……」
「私の気持ちが分かってて、なんで他の女の子とあんな接し方ができるの? キスだって、私の暴走を止めるためだけだったの? 私に、キスしたくなかったの?」
場が静まり返る。
その沈黙を破ったのは、妖精三人娘のひそひそ会議。
「……エルミィはん、それはミリウスくんの口から言わせな、アカンて」
「うんうん、自分で言わさな、意味ないやろ」
――その横で、まだ正座中のミリウスはぽつりとつぶやいた。
「ノームの膝枕って……すごく柔らかいんだぞ。エルミィも、頼んでみたら……」
……。
場の温度が、凍りついた。
精霊三人娘の目に、殺気が宿る。
「――今ここで、まだ他の女の話すんのか。陪審員制度なら、もう極刑やぞ」
ミリウスの弁護人として立つはずだったトーマスも、ルカに囚われていて不在。
そしてマルカとマークワンは、まるでシンクロしていたかのように同時に親指を横に引き、首をスパッと横に切るジェスチャー。
さらに、親指を下に向けた。
「――判決。ミリウス、死刑」
完全に詰んだ。




