表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/254

パーティークラッシャー ノーム

俺は考えた。

どうすれば、エルミィの機嫌を取れるのか。


……さっきからずっと視線が痛い。

殺気混じりの“お兄ちゃんスナイパー”がこっちを狙ってる。

その視線の理由は――まぁ、言わずもがな。ノームの胸元だ。


(……やっぱ、あの手しかないな)


俺はゆっくり、エルミィの方へ向き直る。


「エルミィ、ちょっと、こっち向いて」


彼女は警戒しながらも、ゆっくりと視線をよこした。

俺は、ほんの少しだけ顔を近づける。優しく。


(これで、もう一度だけ……仲直りの、口づけを――)


「っ……!」


エルミィは一瞬、頬を染めた。

けど、それは“照れ”でも“ときめき”でもなかった。


――カウンター発動。


左手で、俺の唇をぐいっと押さえて。


「お兄ちゃん……最低っ!!」


その直後。


ゴスッッ!!


彼女の全体重を乗せた右ストレートが、俺の頬を捉えた。


星が見えた。


鼻の奥で、何かがパチンと弾ける音がした。


エルミィは叫ぶ。


「女がねっ、キスの一つや二つで機嫌直すなんて、

 そんな安い女じゃないの!!」


俺はぐらつく頭を押さえながら、ふらふらと振り返る。

そこには――


ウインディーネ。腕組みして、ため息。


シルフ。無言。視線が完全に氷点下。


イフリート。失望という言葉の体現。


ノーム。引き気味。


マルカ。冷静に、「男の業ね」と一言だけ。


リゼリナ(マークワン内部)。沈黙。何も言わない方が、逆に怖い。


俺は悟った。


(……この空気、俺がラスボスのときと同じだ)



ノームはすかさずハンカチを取り出し、それを冷やして、そっと俺の口元の血を拭ってくれた。

体を寄せる彼女から、ほんのり甘い香りが漂う。


(なんだ……この、新たな感じは)


近すぎる距離。

けれど、不思議と嫌じゃない。


ノームは微笑んで、静かに言った。


「君って、女の子の扱いが下手なんだね」


「もうちょっと女の子のことを、そう――

 一番近くで、君を見てる女の子をちゃんと見ておいた方がいいよ」


その声は優しいけれど、どこか棘があった。

そして続く言葉に、少しだけ重みが乗る。


「じゃないと、君は……女の子に背中から刺されてしまうよ?」


俺は言葉を失う。


ノームは、ふっと力を抜いたように笑った。


「――私? 私はただの、胸の大きい女だから」


自虐気味に笑いながらも、どこか誇らしげで、

そして、ほんの少しだけ寂しそうだった。


(この子……意外と、ちゃんと“見てる”んだな)


――俺は視線を逸らせなかった。

女性陣は――ノームを見誤っていた。


特に、エルミィ。


ホルスタイン?

ただの胸だけ大きい子?

新参者? ポッと出?


――違う。まるで違う。


彼女は“胸が大きいだけの女”じゃなかった。

“コンピュータ付きホルスタイン”だったのだ。


そう、知性と感性の両方を持ち合わせた、最大の脅威。


エルミィは息をのんだ。


ノームの仕草には計算の匂いがない。

それが、逆に怖い。

男ウケする自然体――それを、無意識でやっているのだ。


ほんの一瞬、ミリウスがノームを見つめる眼差し。

その柔らかさに、エルミィの心がチリ、と鳴った。


(あれは……“私”に向ける時とは、違う……)


その隣でウインディーネも静かに呟いた。


「……あの娘、本物かもしれない」


イフリートは眉を寄せた。

火の精霊の直感が告げている。


(敵……ではない。けれど――“脅威”だ)


シルフも黙っていた。

ただ風が読んだ。

空気が変わった。


エルミィは奥歯を噛み締めた。


(お兄ちゃんの視線……奪う気?)

(私を差し置いて……)


この旅のラスト近くに来て――

最大のダークホースが、現れた。


しかもそれは、天然物。


「……舐めてたわね、あの胸だけじゃなかった」


エルミィは、心の中で静かに宣戦布告をした。


(ホルスタインだなんて……悪口のつもりだったのに)


(今はむしろ、最強の装甲に見えて仕方ない)


そしてまた、此処に――ノームによって狂わされた男が一人。


導師、トーマスである。


普段は冷静。

一歩引いて、事態を俯瞰する男。

あくまでサポートに徹し、騒ぐことも、怒ることもない。


……だった。


だが、今。

彼の瞳には明らかな殺気が宿っていた。


視線の先にいるのは――


ノームの膝枕で、うっとりした表情を浮かべながら

「は〜……天国……」とか漏らしている、ミリウスである。


トーマスの拳が静かに震える。

その奥歯が、きりきりと鳴る。


(なぜ――奴が“そこ”にいる)


(俺こそが、ノームの膝に頭を乗せるべきだった)

(ノームの小麦色の太ももに包まれながら、あの手で額をなでてもらうべきだったのは、俺だ)


その瞬間――


ミリウスが、にへらっと笑いながらノームにこう言った。


「ノームの太ももって、すごく温かくて……なんかこう、安心する……」


――バキィッ


トーマスの握っていた杖が、軽くひび割れた。


「……導師様、握力異常です」

マークワンが小声で警告を入れる。


だが、トーマスは応じない。


ただただ、目の前の“光景”を見つめ続けていた。


ウインディーネが、そっと言う。


「……あれ、導師様、何か……漏れてません?」


イフリートは火花を散らしながら言った。


「いや、炎の精霊の私でも、あれは“内なる火”が強すぎると思う」


エルミィだけが、こっそりガッツポーズをしていた。


(ふふ、増えろ……ライバルよ……!

 そして潰し合え……!!)


ノームは――何も気づいていなかった。


彼女の穏やかな膝の上で、

男たちの理性と誇りが、静かに崩壊しつつあることを捉えた。


マルカは、誰にも聞こえないほど小さな声で――いや、聞こえても構わないというように、ふっと呟いた。


「……ノームはパーティークラッシャー。何て恐ろしい娘」


視線は、あくまで無表情のまま。

表情ひとつ崩さないのに、口元の笑みだけが、やけに意味深だった。


ミリウスは膝枕で蕩け、

トーマスは嫉妬で杖を砕き、

エルミィはガッツポーズからの八つ当たり待機。

精霊三人娘は……沈黙。


マークワンさえも、いまは無干渉の姿勢を保っている。


――この空気。


マルカはゆっくりと茶をすすった。


(なるほど、今この場で一番強いのは誰かって話になったら……)


(たぶん、“ノーム”だ)


地力じゃない。魔力でも、技術でもない。

彼女の存在そのものが場を支配していた。


なぜなら――


「男が、あれに勝てるわけないでしょ」


マルカは自分の胸元に視線を落とす。

そこそこある。年齢の割には頑張ってる。そう自負もある。


だが、あれは違う。規格外だ。


しかも“知恵”まで備えている。


(……私があの娘を造ってたら、今頃世界征服してるわね)


そう思うと、自然と背筋が冷えた。


マルカは、そっと席を立つ。


「……マークワン、次の作戦、考えておきなさい」


《了解しました。対象:ノーム。危険度レベル、再評価中》


マルカは振り返らずに続けた。


「私の手の内で収まらないなら……仕方ないわね。別の札を切る時が来たかもしれないわ」


風が、静かに吹いた。


だがそれは、嵐の前の静けさだった。



--





---





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ