三文芝居 カラクリ夢芝居
俺達はシルフを抜かして相談する。やはり、シグルを風の精霊王に突き出すべきかという話になる。俺がそう言った瞬間、シグルが目をまん丸にして振り返った。
「一寸、聞こえてるんですけど」
俺は、声の大きさに驚いたふりをして肩をすくめた。
「うわ……意外と耳がいいんだな」
シルフが遠くの岩陰から、こちらをじっと睨んでいた。
「わざとシグルに聞こえるように話して、逃がすつもりでしょう?」
バレたか。
シグルは困ったように首を傾げる。
「僕の巣、このあたりにあるんだ。できるなら、離れたくない」
……困った。
その時だった。突然、マークワンの照準口が光を帯び、
ズドン。
一閃のレーザーブラスターが放たれ、シルフの肩から先が吹き飛んだ。
「なっ……!?」
「何、いきなり戦闘が始まってるんだよ! 脈絡もなく攻撃するな! 話し合いって言葉、知らないのか!」
俺はマルカに文句を言おうと振り返る。だが、マルカも明らかに驚いていた。
「命令なんて出してない……」
つまり、マークワンの独断――
マルカが震える声でマークワンに問いかける。
「どうして、攻撃したの……?」
マークワンは冷たく、静かに応える。
「先程の戦闘で、シルフは敵と認定。パーティーを全滅の危機に晒した。罪は深い。マルカ様も解除命令を出さなかった。敵とみなされたまま。
敵の要部が露出。殲滅の好機と判断。風の精霊との全面戦闘も、我が戦力なら72%の勝率。風の証は命と交換可能」
凍りつく空気の中、さらにマークワンは言葉を重ねる。
「我が行動を阻害する存在も排除対象」
そして、次に動いたのは――シグルだった。
ふらりと前に出て、シルフの前に立ち塞がった。
「やめて……シルフが死んだら、あのお姉ちゃんが悲しむ。僕、悲しむお姉ちゃん見たくないんだ」
マークワンの砲口は止まらない。
照準が絞られ、収束した光がシグルへと走る――
シグルが血を吐いて倒れた。
あたりに、香ばしい匂いが漂う。
……いい匂いだった。俺のお腹が鳴った。
シルフが涙を流していた。……同時に、よだれも。
泣いていいのか、喜んでいいのか、自分でもわからないという顔。
だが、俺は気づいていた。
シグルが言っていた“お姉ちゃん”は、イフリートの姉だったはずだ。
シルフの姉とは、別人――。
……つまり、芝居だ。
マークワンも、シグルも、シルフも、たぶん全員、気づいてやっていた。
……やっぱり、三文芝居じゃねえか。
そんな中、ウインディーネがすっと前に出て、癒しの雨を降らせた。
風の音と共に、シルフの肩が再生され、シグルの傷も消えていく。
何事もなかったかのように、元通り。
そして、ウインディーネは当たり前のように語り始めた。
「これで、シルフの命を救ったのはシグル……ってことになるよね?」
「まさか、自分の娘の命の恩人を食べようなんて親、いないよね?」
沈黙。
マークワンのセンサーが静かに揺れた。
俺は天を仰ぎ、ぼそっと呟く。
「……でも、精霊だからな。いるかもしれない」




