火の鳥のオーブン焼き バジルソースをのせて
気付くと、イフリートが目を覚ました。
その隣で、エルミィ、マルカ、リゼリナ、シルフも次々と目を覚ましていた。
イフリートは、ぼんやりした目で火の鳥を見て、ぽつりと言った。
「……久しぶりね、シグル。姉の結婚式以来だわ」
火の鳥――シグルは、くちばしをちょっと開いて笑った。
「やあ、イフリート。君は変わらないね。……でも、その目、ちょっと怖いな」
「何のことかしら?」
イフリートはすました顔をしていたが――口元には、うっすらとよだれ。
俺はシグルを見てから、イフリートに視線を戻す。
(……いや、まさか)
「姉って……あのときの、あの“姉”か?」
俺が問いかけると、シグルは少しだけ視線を落として答えた。
「うん。僕が拾われたとき、面倒を見てくれたのはイフリートじゃなくて――あの姉さんだった」
「毎日、火種を替えてくれたし、灰がついた羽も撫でて綺麗にしてくれた」
「だから……姉さんの結婚式で、僕がメインディッシュになるって聞いた時も、納得はしたんだ。
飼われて、助けられて、最後に役に立つなら、それでいいって」
「でも……姉さん、泣いてくれたんだよ。
“こんなに可愛がった子を食べたくない”って。
親たちに隠れて、こっそり僕を逃がしてくれた」
「その送り先が、マコト様だった」
シグルはふうっと息を吐いた。
「……でも、逃がされた先でも、やっぱり僕は“皿の上”だったんだよね」
俺が絶句していると、ふとエルミィの顔が視界に入った。
……よだれ。
マルカも、よだれ。
ウインディーネも、口元から一筋の光る線。
俺はすがるように、リゼリナを見る。
「ミリウス……ダメだわ。私、シグルを見ると……どうしても、食欲が刺激されるの」
「マークワンの中にいても? 食事、必要ないんじゃ――」
「それでも、“美味しそう”って、思っちゃうのよ」
シグルが一歩後ろへ下がる。
「えっ……うそ。君たち、さっきまで泣いてたよね? 精霊なんだよね?
僕、“話せる鳥”なんだけど……?」
エルミィは遠い目で呟いた。
「……炭火でじっくり、香ばしく……」
マルカは分析するように。
「スパイスは控えめの方が、素材の味が引き立ちそうね」
ウインディーネは、うっとりした顔で。
「真空調理でもいいわ……低温でじっくり……」
「お前ら、やめろォォォ!!」
俺の叫びが、火山に響いた。
シグルはそっと空を見上げて、ぽつりとつぶやいた。
「……イフリートの姉さん……リサーチって、大事だったんだね」
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