火の鳥の丸焼き
……ウマ。ウマウマ。モグモグ……。
咀嚼音で目が覚めた。
俺の目の前にいたのは、巨大な鳥だった。
しかもその鳥は、ルカの手土産――銘菓《地獄めぐり〜冥土の土産にどうぞ〜》を、普通に食べていた。
しかも、喋った。
「おや、目覚めたのかい。危なかったねぇ」
鳥は、どこか気の抜けた声で続ける。
「私が火の鳥。君たち、よくここまで来たね。
……ウィンディーネとイフリートがいなかったら、全員あの世行きだったよ。
だからまあ、私は君たちの命の恩人ってことになる。うん」
そう言いながら、もうひと口。
「御礼はいいからさ……そのお菓子、もっとないかい?」
随分ずうずうしい鳥だなと思ったが、
命の恩人なので、文句は言えなかった。
「……ごめん。あれ、一個しか入ってなかったんだ」
「そうか」
火の鳥は、別に気にした様子もなく、お菓子の包装を名残惜しそうに畳んだ。
俺は、ふと思い出したように聞く。
「火の鳥……シルフとは、なんかあったのか?」
火の鳥は首を横に振った。
「揉めたなんてとんでもない。
シルフはね、私の昔の飼い主の娘なんだ。
あの子は……本当に優しい娘だった。
人の命を危険に晒すようなこと、昔のあの子なら絶対にしない」
火の鳥は、どこか寂しそうな目をして続ける。
「何か……あったんだろうね。君たちと話す前に、色々とあったはずだ。
でも、あの子は本来、そんな子じゃない。
どうか、彼女を責めないであげてほしい。……お願いだよ」
鳥なのに、妙に深みのある言い方だった。
俺は、小さく頷いた。
俺は、ひとつの疑問を口にした。
「なあ、火の鳥……お前って、“火の”鳥だよな?」
火の鳥は、もっさりと首を傾けた。
その顔には、どこか「……あ、気づかれたか」っていう雰囲気が漂っていた。
俺は続ける。
「つまり、お前は“火の属性”だ。
だったら、普通は火の精霊王の領域に住んでるはずだろ?」
「けどお前、何で“風の精霊王”……しかも、シルフの父親に飼われてたんだ?」
火の鳥は、しばらく沈黙した。
食べかけのお菓子をじっと見つめ、ひとつ息をついてから、ゆっくり語り始めた。
「本来なら……その通り。私は火の精霊王の庇護下にあるべき存在だった。
でも、昔……火の精霊王と、大喧嘩をしてね」
「……喧嘩?」
火の鳥は、ふぅと小さくため息をついた。
「……ま、正直に言うとね。
火の精霊王の長女の“結婚のディナー”になりそうだったんだ、私」
俺は思わず聞き返す。
「……えっ、食材ってこと?」
火の鳥はこくりと頷いた。
「まあ、“神聖なる儀式にふさわしいごちそう”ってことらしい。
縁起物? ありがたい炎? そんな感じで。
でも私は嫌だった。
誰かの幸せの引き換えに、丸焼きにされるなんてさ」
「だから逃げて、風の精霊王に拾われたのか……」
「そう。あの人は、焼き鳥より言葉が通じた」
火の鳥が冗談めかして笑ったが、その目はどこか本気だった。
「でもさ……今度は、風の精霊王が、自分の娘と君を“結婚のメインディッシュ”にしようとしてるんじゃない?」
「……どういう意味だよ」
「メインディッシュの火の鳥は今晩の主役の一人
ミリウスが皆様の為に命がけで捕まえた珍味です。」火の鳥は風の精霊王の真似をして言った。芸達者な鳥だな。




