無能の役立て
ミリウスは、自分でも焦りがあるのを自覚していた。
このパーティー、レベルが高すぎるんだ。
ウィンディーネにイフリート、シルフにトーマス、マルカ……
俺がいても、正直――足を引っ張ってる気がしてた。
(俺が抜けても、皆なら……四大精霊王に認められるかもしれない)
すでに水と火の精霊王には認められているし、試練もそこまで無茶じゃなかった。
そう思って、悶々とした気分のまま数日を過ごし、俺たちは“火の鳥”が住むという火山地帯に到着した。
シルフが振り返り、いつもの落ち着いた声で言う。
「ここまでご案内しました。現在、私の風で火山性の毒素を排除しています。
……ですが、私が風の操作をやめた瞬間、皆さんは――即死です」
「えっ……ちょ、即死って……」
「おっと。マークワン、あなた。私に精霊魔術ジャマーなんて発動しようものなら、皆さん全員死にますからね?」
マークワンが動く気配を見せる前に、シルフはさらりと続ける。
「あなたが飛べるのはせいぜい二人でしょう? 二人は即死。残る二人は毒素の後遺症で人生棒に振ることになりますよ」
マルカが声を張る。
「マークワン。今のシルフの言葉、真実か?」
マークワンは即答だった。
「シルフの言ったことは真実です。私のセンサーでも未確認の毒素を検出。時間帯によって致死量が変動。
この地域に生息する動物たちは、体内に毒素を中和する能力を有する種のみが生き残っています」
マルカは視線を精霊たちに向ける。
「ウィンディーネ、イフリート。あんたたちは?」
ウィンディーネは肩をすくめた。
「私たちは精霊だから、毒素は意味ないわ」
イフリートも頷く。
「でも……やっぱりシルフを攻撃するのは、まずいかも。後が怖いし」
「安心して」
ウィンディーネが続ける。
「シルフを殺してすぐに、あなたたちの後を追わせる。敵は必ず取る」
……とんでもないことを言いながらも、どこか本気のようだった。
マルカは静かに頭を振った。
「……交渉で乗り切れるなら、その方がいい。私にも責任があるし……」
誰も動けなかった。トーマスも、エルミィも。
そして――俺も。
(俺が犠牲になれば、皆は助かるかもしれない)
(俺がいても、役に立ってないんだし)
そんな俺を見て、トーマスが叫ぶ。
「ミリウス! 馬鹿なこと言うな!」
エルミィの声も続いた。
「お兄ちゃんがいないと……エルミィ、生きていけない……!」
リゼリナも言葉を重ねる。
「ミリウス、あなた、何を考えているの?」
俺は――叫んだ。
「俺の命はどうなってもいい! だから、皆を助けろッ!」
そのとき、シルフがぽつりと呟いた。
「で、皆を助けた途端に、私は皆にボコられるんでしょう……」
腕を組み、ふうっと息を吐く。
「イヤよ。皆にボコられて痛い思いするのなんて」
……本当に、風の精霊か?




