無能
俺たちは旅を続ける。とりあえず火の精霊王に言われた通り、西の方向に馬車を進める。お約束通り、ゴブリンが襲ってくる。マルカはマークワンに銘じて今回はゴブリンを退治しないように待機させた。トーマスはゴブリンの先頭に手刀を繰り出す。トーマスは素晴らしい活躍でゴブリンを次々と葬り去る。エルミィも神器のバイオリンを呼び出しゴブリンを次々に動きを鈍らせてトーマスのサポートをする。戦闘はあっという間に終わってしまった。ほぼトーマス一人で十体のゴブリンを葬り去った。エルミィは嬉々としてナイフを取り出しゴブリンの左耳を切り取って収納袋に入れていく。俺は戦闘力がないので見学だ。早くトーマスに稽古をつけてもらって一人でも戦えるようになりたい。
西の方に向かって馬車を進めていくと、また小さな宿泊場に着いた。小さな宿泊場ではあったが、俺たち一行が全員泊まれるだけの大きさがあった。俺は宿泊場についてイフリートとシーフに疑問をぶつけてみた。シーフ、イフリート、先ほどの戦闘で君たちは戦闘に参加しなかったが、何か攻撃をする術はあるのかい?
イフリートは答える。「当たり前じゃん。私は火の精霊で、あんなちょろいモンスターなんて丸焼き。」
シーフは答える。「私も戦闘力はあるけど、別にさっきの戦闘で協力しなくてもトーマスが全て倒しちゃったじゃない。私の出る幕なんかなかった。」
するよりも、ミリウス、貴方は全然戦闘に参加しなかったじゃん、とイフリートにちょっと馬鹿にされた感じで言われた。シーフも俺が戦闘に参加しなかったのが疑問に思っているみたいだった。
ウィンディーネが俺の代わりに答える。「ミリウスは精霊使いになればいいんじゃないの。」
エルミィはウィンディーネのセリフを聞いて完全に否定する。「これ以上関係ややこしくしないで。」
俺もエルミィの意見に賛成だ。これ以上精霊と契約してエルミィに気を遣わせるのも悪いと感じている。ウィンディーネは俺に、「私たちを使えば並みの冒険者よりも戦闘力が上がる。」と言う。
俺はそのことがわかるのだが、やはり精霊達と契約を結ぶのは躊躇してしまう。
俺たちは宿屋に荷物を預けて、いつもの日課でトーマスを誘って剣の修行に野原に出向いた。トーマスにボコボコに殴られて蹴られて満身創痍になりながら、トーマスの治療術で体を直してもらい宿に戻った。トーマスは「ミリウスは日々上達してるから諦めずに精進しろ。」と言ってくれる。俺も精霊たちの力に頼るのは情けないので、一層精進することを心に誓う。
俺はマルカにたずねた。「今日の戦闘で、なんでマークワンを動かさなかったの?」
マルカは答える。「だって戦闘に慣れてないと、もしもマークワンが動かなくなった時に困るでしょ。」
俺はもっともだと思った。宿屋で軽い夕食とお風呂に入り、今夜は会議場を借りて精霊達と腹を割って話すつもりだ。




