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パン焼きがま
トーマスは、イフリートから送られてきた意味ありげなハンドサインに首をかしげた。
(……え? 俺専用のパン焼き窯になるって、了承してくれたのか?)
「今度、パウンドケーキでも焼いてみるか……」
そんな彼の独り言を、背後からマルカが拾った。
「導師、私がパン焼き窯、作ってあげましょうか?」
「ちょ、ちょっと待った! いやいやいや……っ!」
トーマスは慌てて両手を横に振り、全力で否定した。
「マルカのパン焼き窯、何が漏れるかわかんないからな……っ!
“多い日も安心”って言われても、まったく安心できねぇんだよ!」
(……漏れているのは、エルミィのミリウスに対する気持ちか)
今までは、その感情が外へ漏れていた。拗ねたり怒ったり、すぐ表に出ていたからこそ、周囲も受け止めることができた。
でも今は違う。エルミィは、それを中にため込むようになっている。
(感情ってのは、外に逃がしてなんぼだ。溜め込めば、やがて爆発する)
自身の熱量で、自己融解しなければいいが――
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