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父の罪
ブラックウッド家に二人しかいない使用人のひとり、マルコは、相棒のトーマスにそっと囁いた。
「で?」
トーマスは眉をひそめる。
「でって何だよ」
マルコは憮然とした顔で言った。
「とぼけんなよ。あのレッドウッドのガキだよ」
トーマスは肩をすくめる。
「……何かするかと思ったけどな。客室入って、すぐ出てきたぞ」
マルコは訝しげに見返した。
「本当か? 俺なら5分だ」
「1分で出てきた。下手すりゃ30秒だったな」
マルコはぼそりと呟いた。
「レッドウッド家の男は――人形しか愛せない」
それは、屋敷ではもはや公然の“噂”だった。
しかも、あの人形は――伝説のウインディーネ。
ほんの十数年前のことだ。
現当主の妹君が、レッドウッド家に嫁いだ。
新郎は、今じゃ所在もわからないあの“男”――ミリウスの父。
そして婚礼の翌朝、姫は短剣で胸を突いて命を絶った。
初夜の床で、吐かれたらしい。