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アイマイミーマイン

エルミィは俺に釘を刺すように言った。


「イフリートと契約したら駄目だからね」


俺はうなずいた。


「……わかったよ。エルミィをこれ以上悲しませたくないから、了承する」


そのやりとりを見て、イフリートが小さく頭を下げた。


「よろしくお願いします……!」


エルミィは気分を切り替えるように声の調子を変える。


「イフリート、ブラックロック家の相応しい嫁になれる様、精進しなさい」


「は、はいっ!」


イフリートが勢いよく返事をした――その瞬間。


マークワンが不穏な声を発する。


《精霊法に則って、契約が成立したことを確認》


「……え? どこの部分が!?」


《エルミィ様が条件を提示し、イフリート様がそれに返答した時点で、契約者同士の対等な契約が成立》


《先に親族による体液の交換も行われていましたので》


「ちょ、マークワン! 『体液の交換』って言葉、選んで!!」


《……しかし、真実です》


俺は思わずため息をついた。


「……精霊法って、曖昧すぎて、人類には理解できないらしいな」


どこかで聞いた記憶が蘇る。


「ルカさん……だからマルカさんに書籍を渡したんだよな。

あれで精霊界は一安心、ってことか……」


ふと横を見ると――


エルミィの瞳が、完全に死んでいた。


俺は困惑しながら問いかける。


「……ていうか、これって俺とイフリートの契約?

それとも、エルミィとイフリートの?」


《エルミィ様とイフリート様の契約です》


マークワンの冷徹な断定に、俺は絶句する。


エルミィは、微動だにしない。


まるで、自ら墓穴を掘って、そこに全身突っ込んでしまったような顔をしていた。


イフリートは少し困ったように笑いながら言った。


「でも……精霊契約って、婚姻じゃないんですよね。

一緒に何かを成すための“意思表示”であって、結婚しなきゃいけないってわけじゃ……」


その言葉に、エルミィがほんの少し――ほんの、ほんの少しだけ顔を上げる。


「……そ、そう……だよね……契約って言っても、婚姻じゃないなら……!」


わずかに、瞳に光が戻った気がした。


俺も思わず安堵の息をついた。


(よかった……少しでも立ち直ってくれたなら……)


そして、エルミィは振り返る。


最後の確認のつもりだったのだろう。


信頼の象徴として――

水面に映るウインディーネに、静かに目を向けた。


頼むから、何か希望になるようなことを言ってくれ。


……だが、


ウインディーネは、無言で。


すっ……と、目をそらした。


エルミィの回復しかけた瞳が、また――静かに、静かに、沈んでいく。


終わった。


完全に、終わった。




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