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オーバーキル


翌朝、快晴の中、ミリウスたちは宿を出た。順調に進む馬車の中、眠気に勝てずミリウスはリゼリナに断って少し眠りに落ちる。


だが、再びマシンガンの音が耳を打つ。


「また……?」


外を見ると、そこにはコボルトではなく、昨日とは異なる敵――ホブゴブリンの群れがいた。


マークワンのマシンガンが効いていない。それを見たマークワンは掌を突き出し、光球を生成。

それが一体を貫通し、次々と6体のホブゴブリンの体を貫き、消えた。


そして片手で5発、両手で10発の光球を連続発射し、60体のホブゴブリンを殲滅した。


「……お、おわった……」


エルミィは満面の笑みでホブゴブリンの左耳を袋に詰めている。


「なあ、そんな袋に入れただけで耳、腐らないか?」


「ご安心を。《マルカ工房印の収納パック》よ。多い日も安心」



――


「……マルカさん、やりすぎじゃないか? モンスターだって、生きてるんだし……」


「甘いこと言わないで。モンスターが街道に出るってことはね──

それだけ“神々の血”欲してるってことなのよ。あなたの中に流れてる、その血が引き寄せてるの」


「もちろん、マークワンにはモンスター除けも施してあるわ。それでも、なおやってくる。

それだけ、あなたの血が“世界にとって例外”ってこと」




「精霊たちも同じ。精神世界のはずだった存在が、いま肉体を得てこの世界に現れてる。

そしてね、彼らも“神の血”が欲しいのよ、ミリウス。あなたの血が」


「風の精霊王……ロー。気のいいおっさんに見えるけど、あれも計算高いの。気を許しちゃダメ」


「娘を寄越してるでしょ? 彼女を“伴侶候補”として」


ミリウスが言葉を失ったそのとき、さらに続ける。


「……ミリウス、あなたは半分神。でも、それは“人と変わらない”ってことでもあるの。

戦闘力でいえば、人以下。

だからね、あなた自身がモンスターや精霊たちに“取り込まれて”はいけないのよ」


ミリウスは問いかける。


「じゃあ……エルミィは、平気なのか?」


マルカは、静かに笑って、ミリウスの額を軽く叩いた。


「エルミィは大丈夫。彼女は生まれながらに“神器”“ハートブレイク”“

”を持ってる。

彼女の魂は、精神世界そのものと繋がってる。

彼女が“彼女の曲”を奏でれば、精神世界のすべてを支配できる。……あの子は、半分神だから」





「あなたも、“半神”として生まれてきた。

だからこそ、自分の血に“飲まれる”ことなく、生きなさい。

それが、あなたにできる唯一の戦い方よ、ミリウス」


マルカの言葉に、ミリウスは黙って頷いた。


突如、ホブゴブリンが一体、草陰から飛び出す。

逃げようと背を向けたその瞬間――


ヒュンッ、と空気を裂く音。

マルカが躊躇なくクナイを投げ放つ。


刃は正確にホブゴブリンの後頭部に突き刺さり、

倒れた巨体は地面をずるりと滑って止まった。


「仕留めたわ」

マルカは静かに息を吐く。


だが、次の瞬間――


「うふふふ……!」

エルミィが嬉々とした声を上げ、素早くホブゴブリンの方へ駆け出す。


「耳……残ってるかな……♪」


「待って、エルミィ!」

俺は思わず叫んでいた。


「近づいちゃダメだ、なんか……違う!」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、

地に伏していた“それ”がふいに姿を変えた。


――骨格が歪む。

――皮膚が剥がれ、燃えるような炎に包まれる。


そして、そこに立っていたのは、紅の衣をまとい、瞳に灼熱の光を宿した一人の男だった。


「初めまして、諸君」


男は余裕の笑みを浮かべ、軽く一礼する。


「私は《火の精霊王》──マウス、マウス・ディール。以後お見知りおきを」


一瞬、誰も言葉を発せなかった。


ホブゴブリンが人に化けていたのか――いや、精霊王がホブゴブリンに“成って”いたのか。


空気が変わった。

焚き火ではない、もっと根源的な“熱”が、辺りの空気をじわじわと焦がしていく。






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