お約束
日差しが柔らかく、気持ちの良い天気だった。馬車はのどかな街道をゆっくり進んでいる。
ウィンディーネはまだマークワンのことを怖がっているようで、今回は現地集合ということになった。
トーマスが、ふと口を開く。
「風の精霊王のいる場所に着いたら、修業をつけてやる」
「ありがとう、トーマス」
俺は素直に礼を言った。
すると、街道沿いなのに突如、コボルトの集団が現れる。
「……お約束みたいな展開だな」
そう思いつつも、すぐさま戦闘体制に入ろうとした、その時。
パパパパパッ——!
マークワンの指先から連続した発射音が響いた。コボルトたちは血しぶきを上げ、その場に崩れ落ちていく。
俺はマークワンの指先を見た。そこからは、かすかに白い煙が立ち上っている。
そして足元のコボルトの死体に目をやった。眉間に一発ずつ、正確に撃ち込まれている。
「……マルカさん、マークワンって、ちゃんと拳銃許可証とかの法律はクリアしてるんですか?」
マルカは少し考え込んだあと、首をかしげて言った。
「あれ、拳銃許可証って要るんだっけ?」
俺は一瞬、不法所持じゃないかなと思ったが、話がややこしくなりそうなので黙っておくことにした。
マークワンって、いろいろとヤバいんじゃないか。原子力だし。
「マークワン、つよい〜」
マルカさんは、どこか嬉しそうに笑っていた。
リゼリナは、マークワンの中でじっとしていた。
(マークワンってやばい……ウィンディーネが怖がるのも、わかる)
(でも私は、マークワンの制御ができない。マークワンにただ閉じ込められているだけだから)
外では、エルミィがコボルトの左耳を一つずつ丁寧に切り取って袋に詰めていた。無邪気な声が響く。
「これ、冒険者ギルドに持って行くとお金になるんだよね♪」
俺はその光景を見て、思わずつぶやいた。
「……エルミィ、どこでそんなこと習ったんだろう」
するとエルミィは、振り返ってにこっと笑った。
「冒険者ギルドの受付講習で受付のお姉さんが言ってたの。“耳は左、忘れずに”って♪」
その笑顔があまりに素直で、俺は返す言葉を見つけられなかった。
その後は特に問題もなく、馬車は順調に街道を進み、次の宿泊場所に無事到着した




