表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/254

本妻宣言

昨日の出来事――ウィンディーネを“心から”呼んでしまったことによる精霊的な婚約成立。

それを俺は、エルミィに正直に伝えた。


エルミィは静かに紅茶を口に運び、落ち着いた仕草で話を聞いていた。


そして、微笑んで言った。


「それは、おめでとうございます。お兄様」


声に迷いや怒りはなかった。

むしろ、その微笑みには確かな誇りがあった。


「覇業をなさんとする男に、妻の一人や二人で足りるはずがありませんもの。

でも――本妻は、私ですわ」


彼女の言葉は、ゆるぎなく、強かった。

自信と誇りに裏打ちされた、真の“正妻の風格”。


エルミィは立ち上がると、ウィンディーネの方を向いて一礼した。


「ウィンディーネ。兄の命を救ってくれて、ありがとう」


その姿は堂々としていて、美しく、まったく寂しさを感じさせなかった。


だが――


(……なんだろう)


俺には、ほんの少しだけ、普段と違う何かが感じられた。


だから、思わず声をかけた。


「エルミィ……少し、無理してないか?」


その言葉に、エルミィの瞳が一瞬だけ揺れた。

けれど、すぐにいつもの微笑みに戻る。


「ふふ、さすがお兄様ね。昔から、私のことだけはよく見てくださる」


「……じゃあやっぱり、ちょっとは無理してたんだな?」


「ううん、無理はしていないわ」

エルミィは首を振る。


「私は最初から本妻になるつもりでいたもの。

ウィンディーネが現れても、私の立場も気持ちも揺るがない。

ただ――」


彼女は少しだけ、照れたように言った。


「“気づいてもらえた”ことが、うれしかっただけよ」


(……やっぱり、こいつには敵わねぇな)


そんなふうに思った――そのとき。


「50点、だな」


背後から聞こえた声に、俺は振り返った。


そこには、いつの間にか壁にもたれたトーマスが、腕を組んで立っていた。


「いやいや、いい雰囲気だったけどな? でも50点だ」


「まだ足りねぇんだよ、“踏み込み”がな」


トーマスはニヤリと笑って続ける。


「本妻相手でも、“気づく”だけじゃなく、“言ってあげる”ところまで行かなきゃだろ。

“お前のこと、ちゃんと見てる。信じてる”――くらい、言ってみな」


エルミィが静かに微笑みながら、すっと頷いた。


「さすがは導師。……よく分かっていらっしゃるわ」


「……導師って言われると照れるな、エルミィ」


「私は導師の弟子ですから。心から尊敬しています」


「……ミリウス、お前も見習えよ。

エルミィ嬢は本妻の器だ。ちゃんと受け止めてやらないと、他の男に取られるぞ?」


「いや、それはないと思う」


「それはお前がそう思ってるだけだ。女心ってのはな、もっと奥が深いんだよ」


「それ、トーマスの経験談か?」


「俺はな、五人に振られた男だ。説得力が違う」


「いや……その“説得力”は逆方向だろ……」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ