やっぱりやっちゃう。
ミリウスは、ぐったりとしたウインディーネをそっと寝室へ運んだ。
仲間たちは静かに集まり、彼女を囲むようにして見守る。
ウインディーネが怖がっていたため、リゼリナには席を外してもらった。
「……どうする、この水の妖精?」
トーマスが俺に問いかける。
俺は少し考えたあと、ウインディーネを起こすことに決めた。
軽く頬を叩くと、彼女のまぶたがかすかに震え、ゆっくりと開かれていく。
目を覚ましたウインディーネは、焦ったように言った。
「あ、あのヤバい奴はどこにいる……?」
「君が怖がってるから、あの“怖い奴”には席を外してもらってるよ」
そう伝えると、ウインディーネはほっと胸をなでおろした。
まず、俺はウインディーネに向かって頭を下げた。
「ウインディーネ、俺を助けてくれてありがとう。命の恩人だ」
そのまま彼女の頭を掴んで、トーマスの方に向ける。
「……で、トーマスには謝れ。登場早々、肩口から両腕を飛ばすとか、どんだけ野蛮なんだよ」
トーマスはウインディーネを見たが、その目に怒りはなかった。
むしろ穏やかで、笑いながら言った。
「俺は別に気にしてないよ」
空気が少し和らいだ、そんなタイミングでマルカが口を開く。
「で? この子どうする? やっぱり“やっちゃう”? 今なら誰も見てないし」
物騒なことをさらっと言うマルカに、ウインディーネはビクリと肩を震わせた。
「マルカさん、話が進まないので黙っててください」
俺がそう言うと、マルカは肩をすくめておとなしく黙った。
……なんだか最近、あの人も俺たちに似てきた気がする。
気のせいだといいけど、ちょっとだけ、そんな気がした。




