中間の村
中間の村に、小さな宿屋が一軒だけ営業していた。
宿屋の主人は申し訳なさそうに言った。
「お客様は五名ですが、生憎空き部屋はダブルベッドの部屋が二つしかございません」
リゼリナさんは遠慮して、
「私は人形ですので、馬車の荷台で十分です」
俺は思わず、「イヤイヤイヤ」と変な声が出た。
「女性陣三人が部屋を使ってよ。
俺とトーマスが馬車の荷台で寝るから。
それで良いだろ、トーマス?」
トーマスも、それが当然だろうという感じで頷いた。
俺は話を続ける。
「リゼリナさんとマルカさんが同室で、残った一部屋をエルミィが使う」
エルミィは即座に口を開いた。
「ヤダ。エルミィはおにいちゃんと一緒がいい」
トーマスはエルミィを宿屋の受付の角に手招きで呼び、一言二言、会話を交わしたあと──
エルミィの額に、デコピンを一発。
二人が戻って来た。
エルミィ:
「この状態では仕方ありませんね。申し訳ありませんが、お兄様、トーマス様は
馬車の荷台で我慢してください」
エルミィの額の真ん中が赤くなっている。
俺:
(あれ? 今のエルミィの言動、俺は気持ち悪くない)
「トーマス 俺の妹の頭は、壊れた洗濯機じゃないんだぞ」
その夜は、宿の食堂で夜食を取った。
山が近いせいか山菜が多かったが、充分に美味しかった。




