む 無理です。
ルカの話を聞き終えると、リゼリナは突然、絶叫した。
「む、無理です! 特に水の精霊王は、絶対に私を認めません!」
ルカは目を閉じ、静かに応える。
「リゼリナさん。まだ何も始まっていない段階で、諦めてしまうのは――」
そのとき、マルカも寒くもないのに、両腕で自分の肩を抱きしめ、ガタガタと震え始めた。
俺は、せっかく光明が見え始めているというのに……と内心、焦りながら問いかける。
「リゼリナさん。どうして“水の精霊王があなたを認めない”なんて、そんなふうに言い切れるんですか?」
リゼリナは唇を震わせながら答えた。
「……エリウスが」
俺は思わず天を仰ぎ、嘆いた。
「また父さんか……。父さんは、いつも誰かに迷惑をかけてばかりだ」
リゼリナは慌てて否定するように言った。
「ち、違うの! 私たちの結婚のために、彼は――」
俺には、まるで話の要領がつかめなかった。
リゼリナはルカの方を向き。
「ルカさん、でいいんですよね。あなたは、この姿の私が水の精霊王に認められない理由をご存じじゃないの……それでも試練を受けろというんですか?」
ルカは頷き、穏やかに答える。
「はい。私は“神の眷属”のひとり。リゼリナさんのご事情も、すべて承知しております」
「もちろん、マルカさんの事情も含めて、です」
リゼリナは静かに詰め寄った。
「……あなたの“上の方”だって、私が任務に失敗したら困るんじゃないですか?」
ルカは少しだけ肩をすくめて苦笑した。
「ええ、できれば失敗してほしくありませんね。私も“上の者”に怒られますから」
「――しかし、試練というものは、当事者自身が乗り越えなければ意味がないんです」
「先ほども申し上げましたが、神々でさえも手出しできない領域なのです」
そして、ルカは目を細めて言葉を続けた。
「それとも、リゼリナさんは……自分で引き起こした不始末を、誰かが肩代わりして処理してくれるとでも?」
リゼリナは俯いたまま、わずかに声を絞り出す。
「……そういうわけでは……」
トーマスが口を挟んだ。
「70点」
一言そう告げてから、リゼリナをまっすぐ見据える。
「リゼリナ。ルカは無理強いしていないし、俺もするつもりはない」
「だが、自分でケリをつけるべきじゃないか」
「たとえ失敗しても、誰もお前を責めやしない。……世界が消えるって言ってるんだから、責める人もいなくなるしな」
ルカはやや感動したように顔をほころばせた。
「トーマス様……ぜひ、私の名刺をお受け取りください」
そう言って、ルカは強引に自分の名刺をトーマスに押し付けた。




