調整者 ルカ2
始まりは、イレーネ様がエリウスとリゼリナに祝福を授けたことでした。
それと同時に、イレーネ様自身も恋に落ちたのです。
神が人間と恋に落ちる——それは決して珍しい話ではありません。
本来ならば、エリウスとリゼリナの子孫が、イレーネ様の夫となるはずでした。
しかし、リゼリナの自死によって、その未来は断たれてしまったのです。
イレーネ様は、自身の神威を失い、昏倒しています。
いま、世界は彼女の神威の残滓によって、かろうじて均衡を保っている状態です。
しかし、その神威が完全に消えてしまえば、世界は逆方向に動き始めます。
——膨張と収縮。
やがて世界は、何もない“無”へと帰するでしょう。
そこで、お願いがあります。
リゼリナに“神になるための挑戦”を行っていただき、
その過程で得た神威を、イレーネ様へお渡しください。
そうすれば、イレーネ様自身が世界の修復を行うことができるでしょう。
俺はルカに問いかけた。
「他の神では修復できないのか?」
ルカは、ゆっくりと首を振った。
「残念ですが……無理と言わざるを得ません」
「これは呪いなどではなく、“神の祝福”だからです」
「リゼリナさんには、四大精霊の王に会い、試練を受け、認められていただきたいのです」
「四王に認められれば、人間でも神になることができます」
「神話の中にも、いくつか成功例があるのです」
「決して、不可能というわけではありません」




