タダ働きの従業員ゲットだぜ。
「で、シグル。龍界にはどうやって入るんだい?」
マルカが問うと、シグルは少し顎を掻きながら、冗談半分に言った。
「……すべての希望を捨てれば、向こうから門が開くんじゃないかな?」
マルカはそれを冗談と受け取らなかった。
両手の人差し指をフック状に曲げると、シグルの口の端に突き刺し、そのまま左右にビヨーンと引っ張る。
「ちょっ……まっ……ひゃめへ……ッ!!!」
涙目のシグルが必死に助けを求める視線を周囲に送るが――
(マルカさんのとばっちりは絶対にもらいたくない)という空気が場を支配し、誰も動かない。
ただ一人、ノームだけが一歩踏み出した。
「マルカ様! 私が……マルカ商会に三年奉公することで、シグルの命をお救いいただけませんか!」
場が静まる。
「はぁ? やっぱチート“アカシックレコード持ち”は交渉材料あっていいよな」
イフリートがやさぐれた声でボヤく。
「……んだんだ」
ウィンディーネも沈んだ声で同調する。
「風の精霊シーフは爆乳即斬ッ!」
全く関係ないボケをぶっ込んでくる風の精霊。
マルカは一瞬で商人の顔になり、カチッと目を細めた。
「よろしい。交渉成立としよう」
その瞬間シグルが解放され、肩で息をしながらも、なぜか妙な方向に駆け出す。
「……恩に着る! 息子には真っ先に種付け優先するよう教育しておく!」
一瞬の沈黙。
(……………………は?)
俺は天を仰ぎ、悟った。
――問題は一ミリも解決していない、と。




