無法者の挽歌
其れから三ヶ月の月日が流れ、俺たちはようやく龍王の世界の入口に辿り着いた。
そこには一枚の看板が立っていた。
――「此処から先、すべての希望を捨てよ」
マルカさんは無言で看板を見つめ、次いでマークワンに命じた。
「マークワン、この看板を焼却しなさい」
マークワンは即座にマルカ商会デリバリーシステムを起動し、背部から火炎放射器を展開する。
轟音と共に、炎が業火の如く看板を包み込んだ。
輻射熱が肌を刺す。俺は思わず顔を背けそうになるが、マルカさんは微動だにせず、炎の行方を見つめていた。
――熱くないのか?
俺は喉まで出かかった言葉を飲み込み、ただ見守るしかなかった。
やがてマークワンが火炎を止める。
しかし看板は――焼け落ちていなかった。
焦げ跡一つつかず、まるで炎を拒むかのように、そこに佇んでいる。
マルカさんは一瞬の逡巡もなく、素手で看板に触れた。
「マルカさんっ!」
思わず声が漏れる。
火炎放射の直撃を受けた看板に触れれば、大火傷どころでは済まない。掌がミディアムレアになってもおかしくない。
だが、マルカさんは平然としていた。
「……常温ね」
その瞳が理屈を超えた現象に挑むように細められる。
「科学への挑戦だな」
マルカさんが低く呟いた。
「こんな物質を看板に使うとは、龍王の世界――やはり侮れない」
俺は、看板よりもマルカさんの方が怖かった。
警告を確かめるためだけに、火炎放射器を使うなんて――
その無法と冷静さの混じった行動に、俺はただ息を呑むしかなかった
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