240/254
キス ミー
エルミィが顔を真っ赤にして、パンをちぎり口に運んだ。
「うん……これは、うん、うん……ね。お兄様の、あの執拗な性格が味に出ていますね。
……私の中の“扉”を、痛くしないように、そっと開ける感じ……かな。」
場の空気が一瞬止まる。
俺は――エルミィの口を手で塞ぐべきか、真剣に迷った。
けれど、彼女は唇を尖らせて、まるで“続きを待つ”ような顔をしている。
……本当に、キスして、舌を絡めてやろうかと一瞬思った。
だが、すぐに我に返る。
(いや違う。俺がエルミィにキスしたいだけだ。)
トーマス師匠がせっかく俺のパンを認めさせようと、シグル相手に真面目に話をしている最中だ。
そんな中でエルミィといちゃついていたら、
――ただの色情狂に見える。
そう思って、俺は黙ってパンをもう一口噛みしめた。
……焼きたてよりも、少し冷めたパンの方が、理性の味がする。




