パン職人の道は険しい
罰ゲームのような上映会が終わると、精霊四人娘たちはひそひそと囁き合い始めた。
エルミィは無言のまま、トーマスの前に進み出る。
彼の手を取り、自分の胸元に当てさせると、小さく囁いた。
「……ニギニギ……ニギニギして」
トーマスは驚きつつも、そのまま手を動かす。
エルミィの頬が赤くなり、薄く汗をかき始める。
その背後で、精霊たちが興味津々といった様子で列をつくり、順番を待っていた。
トーマスの正妻ルカは、そんな光景を黙って見つめ、口元にやわらかな笑みを浮かべている。
やがて列の最後にいたノームが、体験を終えると息を吐きながら感想を漏らした。
「……気持ちいい……クセになる……大家族になるのも納得だわ」
ひとしきりトーマスとの“体験”が終わったあと、エルミィは振り返り、ミリウスに向かってはっきりと言った。
「お兄様も――トーマスの弟子になりなさい」
ミリウスは内心「いや、もう剣術の弟子なんだけどな」と苦笑しつつ、わざとワンクッション置いてからトーマスに向き直る。
「……じゃあ、俺をパン作りの弟子にしてください」
トーマスは苦笑しながらも頷いた。
「剣より厳しいぞ。それでもいいのか?」
ミリウスは深呼吸して頷いた。
「はい」




