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トーマス 私を弟子にして
ルカはヘッドでまどろんでいた。あれは幻ではなかっただろうか。
トーマスの両手はまさに神の手だった。元女神の私が言うのも何だけれど、その感触には中毒性がある。頭の奥がまだ痺れていて、思考がうまくまとまらない。
まるで名工が石に魂を吹き込むような——それでいて、現実の身体から魂が抜け出してしまいそうな感覚だった。
彼はただのパン職人にすぎないのか。それとも、稀代の女たらしになれる素質を秘めているのか。
私は自分の思考とは別のことを考えてしまう。
……いや、彼はそうはならない。きっと。
次に彼の顔をまともに見られるだろうか。目線はどうしても、彼の掌へ吸い寄せられてしまいそうで怖い。きっと彼自身は気にも留めないだろうけれど。
もう少しだけ眠ってから考えよう。
今はただ、この余韻に浸っていたい自分がいる。




