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意気地なし


「お義母様! 人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ぬ運命ですよ!」

イフリートが腰に手を当て、堂々と宣言した。

「嫁連合代表として――愚身がお義母様に申し上げます!」


シグルは余裕の笑みを浮かべて肩をすくめる。

「……急ぎすぎじゃない? 流れでこうなっただけで、男性陣はまだ覚悟を決めていないわよ。」


「それはあなたに関係ない!」

イフリートがビシッと指を突きつける。


そこへルカが静かに前に出た。

「……シグルさん、どうして邪魔をなさるのですか。

私はトーマス様を導くと決めました。

彼が迷えば支え、傷つけば守る。それが私の役目です。

その想いを踏みにじられては、彼も私も前に進めません。」


シグルの表情にわずかな陰りが差したが、すぐに笑みを取り戻す。


「シグル、どうして邪魔するの!」

エルミィが感情をあらわに声を張り上げる。

「冥界の王子がいるじゃない! あれだけ私を焚きつけておいて……

いざそうなったら手のひらを返すなんて、許せない!」


「シグルは一号室に戻って!」

エルミィの瞳は怒りに燃えていた。


俺はどう動けばいいのか分からず、ただ立ち尽くした。

トーマスも同じく迷っているようだった。

何もできず、何も言わず――

その優柔不断さが場の空気を重くする。


マルカさんはそんな俺を一瞥し、契約書を掲げた。

「――契約条項に基づき、シグルを一号室に強制送還する。」


乾いた声とともに、シグルは肩をすくめて部屋を後にした。

俺は胸を撫で下ろすことしかできない。


そんな俺を見たエルミィは、何かを諦めたように小さく息をついた。

「……なら、私も一号室に行くわ。」

冷めた声。視線は俺を通り過ぎ、扉の方へ向いている。


俺は何も言えず、その背中を見送った。

――自分の意気地のなさが、彼女を遠ざけたのだ。




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