シグルはお邪魔虫
部屋に入った瞬間、俺たちの視線は自然と一点に集まった。
――部屋の中央で悠然と回転している、弩級サイズの回転ベッドである。
エルミィは顔を真っ赤にして小さく頭を下げた。
「ありがとうございます……」
その礼儀正しさに続いて、ルカも遅れて一礼する。
(……やっぱ女ってこういう時、肝が据わってるというか。いや、プレデターだろ。)
俺は師匠――トーマスの顔を覗き込む。
だが彼も同じように俺の顔を覗き込み、出方を探っていた。
(……言うだけ無駄だな。これはもう腹を括るしかない。)
そんな俺たちを横目に、マルカさんはサラリと部屋割りを言い渡す。
「部屋は四つ。一号室は精霊四人娘。二号室は私とマークワン。
三号室はエルミィとルカ。四号室は男性陣――以上。」
「えっ――」と声を上げかけたエルミィの口を、ルカが慌てて塞ぐ。
俺と師匠は顔を見合わせた。
(……いや、弩級ベッドで寝るなら異性と寝たいけどな。)
マルカさんはさらに淡々と付け足す。
「部屋の行き来は自由とする。――以上。」
妙な沈黙が落ちた。
エルミィの視線がまっすぐ俺を射抜く。
俺は何も言わず、その目を受け止めた。
回転ベッドはギシリと音を立てながら、静かに回り続けている。
まるでこの先の騒動を見越して笑っているかのようだった。
そんな中、シグルがゆったりと手を挙げた。
「……私、人数に入っていないわね。」
マルカさんが視線を向け、淡々と告げる。
「なら一号室に行くか?」
精霊四人娘は「大歓迎!」と言わんばかりに手を振ったが、シグルは首を横に振った。
「遠慮しておくわ。」
「じゃあ二号室、私とマークワンの部屋は?」
「検体にされそうだから嫌。」
マルカさんは小さく肩をすくめた。
「……なら四号室、男性陣の部屋はどうだ?」
「論外ね。」
「……じゃあ三号室だ。」
その瞬間、エルミィの視線が鋭く光り、シグルを睨む。
彼女の目は「ここは私のテリトリー」と言わんばかりだったが、
シグルはどこ吹く風といった顔で微笑むだけだった。
その余裕が、かえってエルミィの心をざわつかせる。




