とんだピエロ
ミリウスはエルミィを想っている。
――そんなこと、ノームには最初から分かっていた。
それでも自分の胸の中の想いを整理したくて、彼に告白したのだ。
そして、ミリウスは真剣な眼差しで彼女を振った。
あまりにも強い言葉で。
エルミィはそのやり取りを見て愕然とした。
(……あのミリウスが、そんな振り方をするなんて。)
自分の態度がノームを追い詰めたのではないか――その後悔が胸を締めつける。
彼女は謝ろうと一歩踏み出したが、その動きはノームによって制される。
「謝らないでください、エルミィ様。」
その瞳には迷いがなかった。
(勝てない戦だと分かっていました。……でも、言わなければ、私の心は前に進めなかった。)
ノームは心の中でそう呟き、静かに微笑んだ。
誰も悪くない。ただ、それだけのこと。
そして――
エルミィはその想いを悟り、そっと視線を落とした。
ノームはもう一度だけ微笑み、背筋をまっすぐに伸ばす。
「私は……飛んだピエロですね。
勝てない戦に出て、打ち取られて……でも、後悔はありません。」
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そんな空気を知ってか知らずか、妖精三人娘は円陣を組んで盛り上がっている。
「見ました? 奥さん。」
「ええ、見ましたとも。……ミリウスって、あんなに格好よかったのね。まさかあれほどとは。」
「私ならノームを選ぶなぁ。抱き心地、絶対最高でしょ。」
「だよね~。でもエルミィ様もきれいはきれいだけど、精神的にはまだお子ちゃま。」
「でもさ、好意をくれた相手をあんなにバッサリ切れるのって、
誠実だと思わない?両方に対して。」
「エルミィ様には安心を、ノームには未練を残さないように……ってことだね。」
「ノームって身体だけじゃないんだ。ウチらよりずっと精神が大人だわ。」
シグルが腕を組んで鼻を鳴らした。
「あたしがもっといい男に育ててやるから安心しな。女難の芽も、今のうちに摘むさ。」
三人娘は顔を見合わせ、くすくす笑った。
――その様子は微笑ましいが、どこか子供っぽくもあった。




