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エルミえの方が怖いです。
マルカさんは改めて精霊娘たち四人を見回し、
低い声で告げた。
「邪な考えを起こすでないよ。」
その言葉はまるで悪役の決め台詞……いや、悪役そのものだった。
マルカさんはなぜ精霊にここまで容赦がないのだろう。
私は慌てて口を挟む。
「今は一応、旅の仲間ですから……不穏な空気にしないでください。」
四人の精霊娘は、互いに肩を寄せ合いながら小さくガタガタ震えている。
唯一、反抗心を燃やしたのはシグルだった。
彼女は牙を剥こうとしたが──
マルカさんが静かに一枚の契約書を見せると、その目は恐怖に見開かれ、
彼女もまた震え始めた。
精霊や神仏は契約を何より重んじる。
その絶大な力には、必ず“代償”としてのサーキットブレーカーが仕込まれているのだろう。
エルミィはそんな精霊たちに向かって淡々と告げた。
「お兄様を奪おうとする泥棒猫は、たとえ泥水を啜っても容赦しない。
私は、いつでもお前らを潰す準備を怠らない。
──ウインデーネ、シグル、ノーム。お前らはダメだ。」
エルミィの声音には怒りでも憎しみでもない、
ただ確固たる決意だけがこもっていた。




