港の見える部屋
シグルが睥睨するように四大精霊娘たちを見下ろしていた。その瞳は下級者を値踏みするようでありながら、どこか慈愛を帯びていて、経験の浅い者たちに微笑みを向ける。
そんなシグルに向かって、イフリートが真っ赤な顔で吠えた。
「中古品! 使用済み! セカンドライフ!」
悪口のマシンガンが次々と飛び出す。慌てた他の三人がイフリートの口を押さえ込むが、なおも彼女はフガフガと暴れ続けていた。
シグルは泰然と構え、気にも留めない様子。むしろその微笑みは「子どもの駄々」すら受け止めているかのようだ。嫁姑戦争の前哨戦──そう言っても差し支えない空気が漂う。
一方、エルミィは携帯念話を取り出し、誰かと話し込んでいた。
「……港の見える部屋……最上階……キングサイズベッド……」
不穏な単語が並び、俺は思わず彼女の後頭部に軽い手刀を落とす。エルミィは「ひゃっ」と声を上げて我に返るが、恨めしげな視線を俺に投げた。
その隙にルカが念話端末を拾い上げ、会話を引き継いでしまう。
「はい、名前はトーマスで。支払いはマルカ工房のクレジット、年十二回払いでお願いします」
……おい、ルカ。君は常識人枠のはずじゃなかったのか?
保護者役のトーマスはなんとも言えない複雑な表情を浮かべている。エルミィは不満げに俺を睨んでいたが、俺は知らん顔を決め込んだ。
ルカは真顔に戻り、改めてマルカに向き直る。
「マルカさん。どうかマークワンをお借りできませんか?」
マルカは面白そうに笑い、答えた。
「いいけどね。ただし耐精霊ジャミングは半径五メートル未満。部屋が同じじゃないと意味がないよ。──ほんと、どれだけリゼリナにイチャつきを見せつけたいのかね。揃いも揃って似た者夫婦だ」
最後にマルカは精霊娘たちを睨み据える。
「今夜、部屋を抜け出した精霊の里の者は──明日の朝日を二度と拝めないと思え」
空気が、一気に張り詰めた。




