マルカさんはマッドサイエンティスト。
マルカは、さきほどシグルに使用した小瓶を、今度はノームに向けた。
瓶の口が彼女の鼻先に近づいただけで、ノームはビクンと体を震わせ、涙目で嗚咽しながら目を覚ました。
「げほっ、ごほっ……っ、くっそ……!」
咳き込みながら、ノームはマルカを睨んだ。
その目は、怒りと恨み、そしてほんの少しの哀れみで潤んでいる。
「……マルカさん。私たちで製品の実証実験をするのは、やめてください……」
だが、マルカはまったく悪びれる様子もなく、むしろ淡々と――それでいて鋭く彼女を追及した。
「で? アカシックレコードには何て書いてあったの? シグルの羽の正体。」
ノームは目を逸らした。その仕草が、すべてを語っていた。
私は慌てて、トーマスと一緒にマルカの前へ出た。
彼女の瞳の奥に潜む、狂気の光を感じ取ってしまったからだ。
マークワンは……当然、マルカの味方に着くと思われていた。
だが、彼は静かに佇み、ただ状況を見つめているだけだった。
味方にすれば心強いが、敵に回すには危険すぎる存在。
動かないでくれ、と私は心の中で祈る。
マルカは手をパン、と打ち合わせ、場の空気を断ち切った。
「――冗談はこの辺にしましょう。」
そう言った彼女は口元だけ笑っていたが、その瞳の奥には、冷たい影があった。
私は、ふと考える。
なぜ彼女は、“人間以外”にあれほど強い敵意を向けるのか。
それは信念か、過去の傷か――あるいは、彼女自身が既に“人間”を超えようとしているからなのかもしれない。




